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『ぱふ』とマンガ情報誌の青春時代【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」8冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」8冊目


子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【8冊目】「『ぱふ』とマンガ情報誌の青春時代」をどうぞ。


写真:著者撮影

 

【8冊目】『ぱふ』とマンガ情報誌の青春時代

 

 202411月2日から2025年2月17日まで、明治大学米沢嘉博記念図書館にて「『ぱふ』の50年とコミティアの40年」記念展なる展示が行われていた。コミティアとは日本有数規模の同人誌即売会。1984年にスタートし2024年が40周年だった。現在は年に4回、東京ビッグサイトで開催され、35005000のサークルが参加するという。コミケと違って二次創作はNGでオリジナル作品に限る、というのが特徴だ。

 一方、『ぱふ』(清彗社・のちに雑草社)は1974年創刊のマンガ情報誌。ただし、創刊当初の誌名は『漫画界』で、以後『漫波』『まんぱコミックス』『だっくす』を経て、1979年に『ぱふ』に落ち着いた。すでに2011年に休刊しているが、創刊から数えれば2024年で50周年。コミティア実行委員会の会長である中村公彦氏が1981年~93年の間、『ぱふ』編集部に在籍、編集長まで務めた縁もあり、マンガ文化の裾野を広げた両者を振り返る展示が企画されたのだ。

 私が同誌を初めて手にしたのは、まさに『だっくす』から『ぱふ』へと誌名が変わった1979年1月号だった。特集が「諸星大二郎の世界」で、「未発表作品 昔死んだ男(32P)収録」とくれば、買わないわけにいかないだろう。マンガに詳しくない方はご存じないかもしれないが、諸星大二郎といえばSF・伝奇ものの分野で圧倒的な存在感を放つ巨匠中の巨匠。当時もすでに『生物都市』『妖怪ハンター』『暗黒神話』などの傑作をものしており、私のようなマンガマニアにとっては垂涎の特集なのである。

 巻頭には仕事場での本人インタビューを写真付きで掲載。ファンにはうれしいところだが、そのタイトルが「サイレント・インタビュー 諸星大二郎さんの静かな次元を訪ねて」というのに苦笑する。取材者いわく、〈諸星さんは無口ではにかみやさんのようで、うすく笑顔を見せながら、小声でとつとつと語る。質問するとしばらく考えこんでからやっと口を開くことの多い寡黙な方です〉。本文中にも沈黙を示す「…………」がやたらと出てくる。だからって「サイレント・インタビュー」はないだろう――と当時は思ったが、のちに自分がインタビュアーとして諸星氏を取材して、なるほどサイレント……と納得した。

 

『ぱふ』(清彗社)1979年1月号p18-19より。諸星大二郎「サイレント・インタビュー」

 

 特集には手塚治虫が語る諸星大二郎、山田正紀、光瀬龍らの寄稿、「諸星世界の幻獣グラフィティ」「諸星大二郎名セリフ名場面」などの企画が盛りだくさん。そして何より未発表作品『昔死んだ男』が貴重である。たぶん今も単行本未収録なのではないか。この特集だけでも中学生の小遣いから280円を出した価値はあった。

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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