『ぱふ』とマンガ情報誌の青春時代【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」8冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」8冊目
同誌はその後もますむらひろし(2・3月合併号)、萩尾望都(4月号)、大島弓子(6月号)、大友克洋(7月号)、吉田秋生(9月号)といったマニア注目の人気作家を次々に特集する。値段は340円~380円に上がったものの、これまた当然、買わざるを得ない(値上げはその後も何度かあり)。
当時もマンガ雑誌はたくさんあり、その中に漫画家自身が登場することはあった(そのへんは南信長名義の拙著『漫画家の自画像』に詳しい)が、長尺のインタビューを含む特集として一人の作家に多くのページが割かれることはほとんどなかった。手塚治虫や赤塚不二夫など一部の大御所有名漫画家を除けば、新聞や一般の雑誌にインタビューが掲載されたりテレビに出演することもほぼない。そんななかで『ぱふ』は、漫画家の素顔や肉声(といっても活字だが)に触れられる唯一のメディアと言っても過言ではなかった。
特集だけでなく、「まんが家WHO’S WHO」というコーナーでは、注目作家のプロフィールと小インタビューが掲載される。「今月の話題作」は、タイトルどおりのマンガ時評。橋本治の作家論、村上知彦の「まんが月評」も読みごたえがあった。そうしたプロの書き手の評論のみならず、読者からも広く批評・評論を募集していたのも同誌の特徴だ。
〈まんが専門誌の役割が、明日のまんがを育ててゆくことにあるとすれば、新人発掘という使命の対極に、いまのまんがを真に見つめていく必要性があげられるのは当然の事かもしれません。/全ての文化に対し批評が存在している今日、まんがを若者の文化として確立するためには、日頃まんがに浸っているぼく達自身による評論が不可欠なのではないかと思います/貴方自身によるナマのまんが・アニメ・劇画評を募集します。どしどし「作品」をお寄せ下さい〉というのが編集部の弁。
実際、読者による長文の批評が掲載されていたし、批評とまではいかなくとも、読者投稿欄では活発な議論がなされていた。萩尾望都の『トーマの心臓』について〈あんな方法でしか表現できないんですかね~「トーマの心臓」って、単なる同性愛ものかと思ってたらだいぶちがうんですね、オレにゆわせりゃ、あんなものにせものですよ。筒井康隆の「男たちのかいた絵」よんでみたら、おもしろいでっせ〉なんて投稿に〈「男たちのかいた絵」と「トーマの心臓」を比較する事自体がまちがっているのではないですか。「男たち」は、独特な筒井タッチの作品ですが、(悪くいえばワンパターン)「トーマ」とは、目指しているものが違うので、後者はむしろ「ジーザス・クライスト・スーパースター」のような気がします〉といった反論が寄せられたりする。
「ぱふ まんが倶楽部」と題されたマンガ作品そのものの投稿コーナーもあった。そこに掲載された入選作は、やはりメジャー誌とは違うクセの強い作品が多いように見える。79年2・3月合併号の佳作二席に入っている福谷たかし(20歳)は、のちにコメディタッチの『独身アパートどくだみ荘』で人気を得るが、投稿作は暗い感じのものだった。
同人誌紹介コーナー「われらが同人誌」やサークル会員募集コーナーもある。79年11・12月合併号の特集「全国まんが同人誌地図」は北海道から九州まで、有名無名を問わず238誌(数えた)の同人誌を紹介していて圧巻の情報量。同人誌に有名も無名もないだろうと思われるかもしれないが、プロやセミプロが参加している有名同人誌は昔も今も存在する。個人情報ゆるゆるの時代なので基本的にすべて連絡先の住所が掲載されており、通販購読の申し込みをすることも可能だった。

「○年度決算号」として読者投票と識者アンケートによる「まんがベスト10」を発表しているのは『このマンガがすごい!』(宝島社)の先駆けと言えよう。「長編部門」「短編部門」のほか、「主演男優/女優部門」「助演男優/女優部門」「新人部門」などの賞もある。投票結果はその時代のマンガ界の動向を如実に伝え、今見ると懐かしい。もちろん新刊情報やイベント情報も載っている。編集部内に「フリー・スペース」を設け、同人誌等の委託販売も手がけた。つまり、頂点から裾野の端っこまで、マンガに関する情報がぎっしり詰まっているのが『ぱふ』だった。
しかし、1981年1月号をもって『ぱふ』は突然休刊する。原因は放漫経営の社長と独断専行の編集長の対立……ということらしい。その後、編集長派は新雑誌『ふゅーじょんぷろだくと』(ラポート)を創刊(81年7月号)。社長派は同年12月号より『ぱふ』を復刊する(発行:雑草社)。雑誌編集部に限らず組織には往々にして見られる分裂劇である。