カリスマ社長が率いる会社は「まるで宗教組織」IT企業3社を去ったウェブ編集者の告白【北野哲】
なぜIT企業では人間が壊れるのか? #2
華やかなイメージもあるIT企業だが、心を病んでしまう人の話をよく見聞きする。厚生労働省の「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタル不調により1カ月以上の休業を余儀なくされた人の割合は、情報通信業が17業界中ワースト2位。また、休職後に退職した人の数ではワースト1位となっている。当事者の語りから、その原因を探る。今回話を聞いたのは、IT企業を都合3社退社したウェブ編集者・上田亮太さん(仮名・38歳)。
いまアメリカの国政にまで入り込んでいるイーロン・マスク。X(旧ツイッター)の買収など、事業を強烈に推進させる一方、部下には異常な長時間労働や生産性やノルマを突きつけ、水準に達しなければ容赦ない叱責を浴びせる。
マスクほどアクが強くないにせよ、日本のIT企業にも、同じようなカリスマ社長がいるようだ。従業員に強いプレッシャーをかけ、何も知らない若手社員を自分色に染め、異様な社風を作り上げる。そしてそこに君臨するトップは“教祖”として崇められる。上田さんは、そんな会社を数社経験してきた。
■入社早々、年下上司からのダメ出し
3社目の大手toCメディア企業・C社の経験を中心に聞いてみる。
「上田さん、うちの“バリュー”に沿った行動をしてくださいよ」
上田さんは、C社に入社早々6歳年下の女性上司からこうダメ出しを受けた。どうやらチャットツールでDMを送ったのが気に触ったらしい。アルバイト社員へのちょっとした指示だったが、上司はそれを公開チャンネルに書くように求めてきた。
バリューとは、要は行動規範のようなものだ。横文字は耳障りもいいので、昨今のIT企業はこぞってHPに「弊社のバリュー、そしてミッション、ビジョンは…」などとカッコつけて書いてあるが、中身はないことが多い。
そのC社では、「コミュニケーションはオープンにしよう」というバリューが掲げられていた。ということで、なんでもかんでもオープンチャンネルでメッセージを飛ばすことがルールになっていたのだ。
入社して間もない上田さんは、そのルールを知らなかった。部署のオープンチャンネルは明らかに情報が渋滞していた。DMの方が、関係ない人のノイズにならないのでは? そう考えてDMを使った。しかし、件の上司はそんな想像力も働かず、ただ口を尖らせるばかり。
温厚な上田さんもブチギレ寸前だったようだ。
「正直はらわたが煮えくり返りました。年下のクセに!って(笑)。まあその時は我慢しましたけど」