カリスマ社長が率いる会社は「まるで宗教組織」IT企業3社を去ったウェブ編集者の告白【北野哲】
なぜIT企業では人間が壊れるのか? #2
■30代でも「年齢が年齢」という組織
正気の社員は次々に会社を去っていく。
「あまりにも社員が辞めるので、何人辞めたか数えてみたことがあったんです。僕がいたときは、1年で50人は辞めていましたね」
毎日の長時間労働だけでもハード。それに加え、上田さんは会社から求められるものも多かった。
「年齢が年齢なので、若い子と一緒のチームでは、彼らを率いるリーダーとしての役割が期待されていたんです。にもかかわらず、それができていないというフィードバックを、期末評価のたびに受けていました」
上田さんはまだ30代。世間一般の会社ではじゅうぶん若手だが、キャリアの浅い20代の若手社員が多いC社の中ではベテラン格だったのだ。
恐らく上田さんは、夜遅くまで若手と付き合い、その動きを会社にアピールすることが求められていたのだろう。しかし上田さんには家庭もあり、それは難しい。
このままC社で働いていても、やがて自分は「会社の方針に従わない、目の上のたんこぶ」扱い。素直にバリューを受け入れ、残業を喜んでする新卒社員の方が引き上げられるのだろう——。この場所で働いた先の未来に、悲観的なイメージしか描けなくなっていた上田さんは、心の袋小路に追い込まれていった。そして、
「頭痛や吐き気が頻繁に起こり、朝起きられなくなっていきました。そして、心療内科に行くと『中程度のうつ病』と診断されたんです。でも、小さな子どももいるので会社を辞めるわけにもいきません。薬を飲みながら、だましだまし仕事を続けていました」
仕事の愚痴を言える相手がいなかったのもつらかった。
「以前の職場は、ハードながらも同僚と飲みに行って仕事の愚痴を言うことができました。でも、C社では20代の若者に『おじさん、大変なんだよ』と言ってもしょうがないよねって思ってしまったんです」
20代の社員の一部はサークル感覚でつるんでおり、仲間意識が仕事の活力にもなっていたようだ。しかし、30代・家庭持ちの上田さんは、そのノリにもついていけない。
