カリスマ社長が率いる会社は「まるで宗教組織」IT企業3社を去ったウェブ編集者の告白【北野哲】
なぜIT企業では人間が壊れるのか? #2
■IT企業で働いた負の遺産が積み重なった
結局、上田さんは出社が難しくなり、リモートワークの勤務に切り替えてもらった。これを機に転職活動を始め、現在の会社に入社することができた。
しかし、入社しばらくはメンタル疾患がまだ治っていなかった。定期的に起こる抑うつ症状に加え、度重なるミスに悩まされるようになっていく。
「ライターさんから上がってきた原稿チェックで、誤字脱字の見落としがとても多くなっていきました」
責任感の強い上田さんは、そんな自分にふがいなさを感じて落ち込んだはずだ。職場の理解もあり、一時休職をさせてもらった。
「今までとにかく仕事しなきゃと思って生きてきたのですが、仕事のことを考えずに一度リセットすることが必要だと思いました」
責任を負わされ、人間性を削って会社のやり方に合わせる働き方を何年も強いられてきた上田さん。2社目の大手ITプラットフォーム企業・B社での負担も大きかったようだ。創業社長のカリスマによるトップダウンのやり方で、社員が疲弊し、ボロボロと人が辞めていくという構図はC社と全く同じ。ここはとくに辞める速さが凄まじかったという。
「人が次々に“飛ぶ”んですよね(笑)」
飛ぶとは、まるで人が物体かのような響きだが、朝にニコニコ顔で挨拶してきた新人が、昼休みに行ったきり戻ってこなくなるようなことは日常茶飯事だったとか。
B社の特徴としては、徹底的な管理体制があげられる。日々の業務をすべてシステムに記録し、その進捗度を上司や社長が常時監視する。チェックの仕方も、仕事の中身ではなく、とにかく制限時間内に終わったのかどうかを確認するといったもの。
「この会社では面白い企画も担当させてもらいましたけど、やっぱり合わなくて。中身にこだわる、いわゆる編集者魂みたいなものはまったく評価されない会社でした」
上田さんの柔らかな感受性を、無理やり企業のカタチに押し込まれるのはつらかったことだろう。
時間軸を戻そう。
D社では主治医に書いてもらった診断書を持っていって上司に相談すると、3 カ月の休職期間をもらうことができた。休職期間を経て、上田さんは無理なく働けるポジションに戻ったあと、現在は充実した仕事生活を送っている。