一寸の『GON!』にも五分の魂【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」9冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」9冊目
が、そんなふうにネタ扱いしている時点で差別である、と言われれば返す言葉はない。若気の至りで申し訳なく、今は反省しています(その代わりというわけではないけれど、ホームレスの自立を後押しする雑誌『ビッグイシュー』では、もう10年ぐらいサポーター会員を継続中)。というか、ほかのフェイクネタ記事も、今見るとちょっとウソくさい。いや、もともとウソなわけだが、うまいウソをつく才能は自分にはあまりないらしい。
そんなこんなで個人的な反省点はあるものの、『GON!』自体はユニークで面白い雑誌だったと思う。くだらないバカネタもよかったが、前述の「日本一まずい缶ジュースを捜せ!」のような比較検証企画は、『暮しの手帖』のかつての名物企画「商品テスト」に通じるものがなくもない気がしなくもない。その対象は缶ジュースからカップ麺、お菓子などの食品にとどまらず、さらにはテレビドラマ、マンガ、雑誌へと広がっていった。
「史上最強につまらないNHK大河ドラマの謎を解く!!」(1997年3月号)、「’96年日本一つまらんマンガはこれだ!!」(1996年3月号)といったディスり系もあるが、「伝説の少女雑誌ギャルズライフ完全大図鑑!」(1998年3月号)、「エロ実話誌全30冊大検証!」(1999年6月号)、「『週刊宝石』あなたのオッパイ見せて下さい徹底大検証!」(1998年11月号)などは資料的にも貴重な労作。こうした企画は、一種のメディア批評とも言える。雑誌ネタが多いのは、テレビなどに比べて調べやすいというのもあるだろうが、編集者もライターもやっぱりみんな雑誌が好きなのだ。
悪趣味ブーム真っ只中の1995年12月号では、「優良悪趣味雑誌15選」と題して比嘉健二、藤木TDC、田原大輔の3氏がそれぞれの悪趣味雑誌ベスト5を挙げている。〈悪趣味雑誌のガチンコ王「GON!」が自らを棚にあげてKING OF悪趣味雑誌を選定!〉というメタ視線というか開き直りはさすが。〈そこはかとない情けなさが漂っているのが悪趣味だ〉(比嘉)、〈狙ってる悪趣味は正統な悪趣味とはいえないよ〉(藤木)、〈不自然や無駄なものに意味があるんだ〉(田原)という各氏の悪趣味観も味わい深い(ちなみに各氏の1位は、比嘉:『たまごクラブ』、藤木:『出目研究』、田原:『バディ』だった)。
創刊当初に少し仕事して以来、しばらくご無沙汰だった私も、1998年5月号では「仁義なきパクリ雑誌大戦争!」という特集を企画から構成・執筆まで担当した。表紙にも一番大きく打ち出された堂々の第一特集である。といっても4ページだけなのだが、その4ページのみっちりした詰まり具合がハンパない。

「B級カルトマガジン」「エロサブカル写真誌」「お宝雑誌」「ストリート系コギャル雑誌」「パズル雑誌」「素人ナンパ誌」「ブルセラ美少女雑誌」「パチンコ情報誌」「公募雑誌」「中高年告白投稿誌」の10ジャンルの対決と相関図、いくつかのコラムで構成。もうジャンル自体存在しないようなものもあり時代を感じさせるが、マッチメイクも解説も我ながらよくできている。『東京ウォーカー』をパクって1号でつぶれた『東京インフォ』編集長へのインタビューなど、涙なくしては読めない。
というか、文字が小さすぎて今となっては老眼鏡をかけてもほとんど読めない。この4ページでいったい何文字あるのか。一般的な雑誌の原稿料は400字=いくらで計算して支払われることが多いが、『GON!』の場合は1ページ=いくらだった気がする。この特集のギャラは、文字単価にしたらたぶんめちゃくちゃ安い。それでも、やりたいことを好き勝手にやれて楽しかった記憶がある。
今回バックナンバーをチェックしていたら、のちに知り合いになるライターやイラストレーターやカメラマンの名前がクレジットされているのを何人か発見した。おそらく私と同じような感じで、楽しみながらやっていたのではないか。ああ、あの人ならこういうテーマでやるよね、という納得感もあった。
B級ニュース、バカコラム、路上観察、現場ルポ、サブカル、芸能、エログロ、読者投稿……と、何が出てくるかわからない闇鍋雑誌。創刊編集長の比嘉氏は、別冊宝島345『雑誌狂時代!』(宝島社)のインタビューで次のように語っている。
「やっぱり俺、エロ本もそうだし『ティーンズロード』(引用者注:比嘉氏が編集長を務めていた伝説の暴走族雑誌)もそうだけど、“ジャンクもの”というか、とにかく低い低いラインが好きなんですよ。もう志の低ーい、どうでもいい、世の中のためにならないもの。それが自分のベースだから、その集大成を作りたいということで。ちょうどその当時、雑誌がみんなキレイキレイになってて、気取ったものばっかりだった。でも、それじゃ面白くない。結局、雑誌ってくだらないものじゃないですか。便所で読むとか、寝る前にちょこっと読もうかなぐらいのスタンスがちょうどいい」