追い出し部屋はギリシャ神話にもあった!?
まるで奴隷制のような日本企業のリストラ
人間の尊厳を奪い、リストラする大手企業
リストラを遂行中の大手企業では、通称「追い出し部屋」という部署が設けられることが多いようだ。実際の部署名は「人材開発センター」などといった前向きなものだが、やっていることは退職の促進である。
追い出し部屋に配属された社員に対して、会社は決して「辞めろ」とは言わない。
「自分で仕事をつくってください」とか、「採用してもらう部署を見つけて売り込んでください」と指示することが多いようだ。万が一訴えられて、会社の落ち度を責められるようなことになっては大変なので、言質を与えないようにするわけだ。
あるいは、外部のコンサルタントにキャリアカウンセリングを担当させて、「外部に仕事を求めたほうが、あなたに適した職が見つかる」と言わせているという話も耳にする。
追い出し部屋に配属されるのは、会社に目をつけられた者なので、かつての同僚も自分の保身を考えて距離を置く。そうやってジリジリと追い詰めるのが追い出し部屋の特徴のようである。
知り合いのカウンセラーは、次のような体験を聞いて唖然としたらしい。
追い出し部屋の従業員が朝、上司から1枚の紙を渡され、「これをできるだけ細く切ってくれ」と指示されるそうだ。彼は1日かけて作業をし、夕方「どれぐらい切った?」と聞かれる。そして、「これぐらい細かく切りました」と提出した紙を、「ああ、そう。お疲れさん」とゴミ箱に捨てられるのだという。
人並みの心を持つ人間にとって、こういう追い込まれ方が一番こたえる。
21世紀の日本に、ギリシャの奴隷制が見える
「シーシュポスの岩」という話をご存じだろうか。
これは、ギリシャ神話の登場人物、シーシュポスの話だ。都市国家コリントの創建者とされる彼は、ゼウスの怒りを買って連行されそうになるが、さまざまな知恵をめぐらせてゼウスを困らせる。その報復としてゼウスが課したのが、地獄の山の頂まで、大きな岩を運び上げる仕事である。
ところが、その山の頂はとがっているので、ようやく運び上げた岩は、あっという間にふもとまで転がり落ちてしまう。そこでシーシュポスは、また岩をふもとから運び直す。この不毛な苦行が、永遠に続くのである。ちなみに、古代ギリシャは奴隷制の社会で、シーシュポスの話は労働の起源を意味しているのだという。
人間にとって最も耐えがたいのは、自分がしていることに何の意味もない、何の役にも立たないと思い知らされることだ。だから、人の心を壊そうとする者は、シーシュポスの岩よろしく、意味のない作業に従事させる。
旧ソ連にあったシベリアの強制収容所でも、朝から凍土に穴を掘らせ、昼の休憩後、その穴を埋めるという強制労働があったという。人間としての誇りを奪うためだ。
この21世紀に、日本の一流企業が、自社の従業員に本当にそのような行為を課しているとは……。背すじが寒くなる話である。
<『他人の支配から逃げられない人』より抜粋>