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小林旭著『マイトガイは死なず』 激動の人生が見せる昭和の輝き【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第18回 『マイトガイは死なず』小林旭 著


何が起きるか予測がつかない。これまでのやり方が通用しない。そんな時代だからこそ、硬直してしまいがちなアタマを柔らかくしてみましょう。あなたの人生が変わるきっかけになるかもしれない・・・そんな本がここにあります。「視点が変わる読書」連載第18回。小林旭著『マイトガイは死なず(文藝春秋)を紹介します。


小林旭著『マイトガイは死なず』(文藝春秋)

 

「視点が変わる読書」第18回 

激動の人生が見せる昭和の輝き

 

■ドル箱スター・石原裕次郎の陰で辛酸をなめた男

 小林旭を生で見たのは、忘れもしない、2019216日。場所は千葉県文化会館だった。

 その前年の9月から小林旭はデビュー63周年を記念する「プレミアムコンサート」で全国を回っていた。夫が大の旭ファンで、これを逃すと二度と彼の肉声を聴くことができないかもしれないと危機感を抱き、一緒にコンサートに行くことになったのだ。

 当日、会場の1700席は八割方の入り。観客は7080代と思われる人たちが大半であった。その観客を前に、白いスーツを着た旭が歌う、歌う。

 「ギターを持った渡り鳥」、「ダイナマイトは150屯」、「自動車ショー歌」、「恋の山手線」、「さすらい」、「北帰行」、「昔の名前で出ています」、「熱き心に」……往年のヒットナンバー20曲を休憩もとらず、2時間ぶっ通しで歌い続けたのである。

 その声量たるや、とても80歳のものとは思われない。MCも上手く、昔話などを入れ込んで、客を笑わせている。

 その存在感にただただ圧倒された。

 ところで今、「小林旭」の名前を聞いて、どれくらいの人が反応できるだろう。

 60代以上であれば、恐らくOK50代もぎりぎりセーフかな。40代はちょっと危ない。30代以下は無理かもしれない……。お祖父さんやお祖母さんが旭のファンであったというなら別だが。

 小林旭は現在86歳。芸能活動から遠ざかって久しいのだから、若い人が知らなくても無理はないと思ったら、それは違う。旭は今なお現役の歌手で、デビュー70周年!の今年は5月に大阪の新歌舞伎座で「70周年記念コンサート AKIRA THE ONLY ONE SHOW AGAIN」が開催されるのである。

 しかし、歌手は旭の一面に過ぎない。

  1955年、小林旭は第三期ニューフェイスとして日活に入社した。本来オーディションの条件は18歳以上だったが、歳をごまかし16歳で通ったのだ。同期には二谷英明がいた。

 翌年『飢える魂』で銀幕デビューを果たすも、3年間は大部屋で辛酸をなめた。

 一方石原裕次郎は、兄・石原慎太郎の小説『太陽の季節』を日活が映画化した56年、その映画に出演するために日活に入社するや、すぐに『狂った果実』で主役に抜擢され、以降スター街道を驀進。

 ドル箱スターの裕次郎をちやほやする会社に対し苦々しい思いを抱いていた旭だったが、59年、ペギー葉山が歌って大流行した『南国土佐を後にして』の映画化で、主役を演じると、これが大ヒットして、旭の代表作「渡り鳥シリーズ」に繋がった。

 1960年代に入ると、裕次郎人気は早くも翳りを見せはじめ、旭の時代が到来する。「渡り鳥シリーズ」は『ギターを持った渡り鳥』から『渡り鳥北へ帰る』まで8作が制作され、いずれも大当たりした。旭が演じたのは、暴力団組織の陰謀で警察をクビになった元刑事・滝伸次である。伸次は函館、会津、宮崎、長崎と日本中をギターを持って旅をし、土地土地で悪と闘う。主に浅丘ルリコ演じる土地の女性と情を交わしながらも、それを振り切って、次の土地へと旅立っていく。二作目の『口笛が流れる港町』からは、馬にまたがって登場するパターンが定着した。

 ストーリーは荒唐無稽で馬鹿馬鹿しくもあるが、伸次役の小林旭のルックスとアクションのかっこよさはストーリーの欠点を補って余りある。アマゾンプライムビデオなどを利用すれば見られるので、是非一度見てほしい。

 「渡り鳥シリーズ」に平行して、旭主演の「銀座旋風児シリーズ」、「流れ者シリーズ」も制作され、その人気は大爆発した。

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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