小林旭著『マイトガイは死なず』 激動の人生が見せる昭和の輝き【緒形圭子】
「視点が変わる読書」第18回 『マイトガイは死なず』小林旭 著
■窮屈になった世の中を吹き飛ばす力
「文ちゃん(菅原文太)も辰ちゃん(梅宮辰夫)も山城新伍も(高倉)健さんも……みんな散ってしまった。切ないよね。(宍戸)錠さんなんて、亡くなるひと月くらい前まで元気そうにしてたから、訃報を知った時は思わずえっ! と声が出てしまったんだ。
最後に電話で話した時は『九十歳まで行くぞ』と張り切ってたから、どうぞ行ってくださいと言ったばかりだった。
日活にダイヤモンドラインができて、宣伝部が俺にマイトガイ、裕次郎にタフガイというニックネームをつけたとき、錠さんだけはなぜか〝エースのジョー〟だったんだ。『俺はモンダイガイだな』と言って、錠さんがみんなを笑わせたのを思い出すよ。
もっとも俺も八十五歳。どんなに元気だとかスタミナがあると言っても、昔の感覚なら頭がボケて、杖でもついてヨチヨチ歩いているのがせいぜいだ。降りかかってくる火の粉を振り払えるうちはいいけど、それができなくなったらおしまい。その時はしょうがねえなあと受け止めて眠るだけさ」
とは言うものの旭はこれまで大病を患ったことはなく、昔話の記憶も鮮明だという。タバコはとうの昔にやめて、酒は付き合い程度。夕飯にはウーバーイーツで注文したステーキをたいらげ、趣味のゴルフも続けている。何より、今なおステージに立って歌い続けている。
あああ あああ
一日 一日 遠くなる
わたしの時代が遠くなる
そして あのこも あのひとも
旭が歌う『昭和恋唄』の歌詞である。
今年は昭和100年にあたる。
しかし、時代は昭和から平成、令和と移り変わり、世の中も大きく変わった。色々便利にはなったが、窮屈にもなった。
マイトガイにはその窮屈さを吹き飛ばす力があるように思う。
5月に大阪で開催されるコンサートには是非行きたい。そこで小林旭の輝きを見たい。平成や令和にはない昭和の輝きを。
文:緒形圭子