「9.11以降」アニメを作ってみた? そこから見える「3.11以降」の世界
現在観測 第9回
ともあれカニバル星人で風刺ものは一段落ついたので、次回作は新たな領域に挑もうと思いました。ちょっとロマンチックなのがいいかなあ(笑)とかアイディアを練っていた矢先だったのですが……
あの「3.11」が起きました。普段わりと冷静な自分もさすがに泡食ったわけです。これはロマンチックとか言ってる場合ではないと。
そこで急遽企画を変更し再度風刺物を作ることにしました。海外の「9.11以降」を意識してジャーナリスティックな風刺ものに数年間血道を上げてきた自分が、今の日本における「カニバル星人的なるもの」を作らないでどうする、と思えたからです。海外や映画祭の評価を狙って云々でなく、純粋な衝動に突き動かされました。
そうしてでき上がったのが最新作の『ダイナミック・ヴィーナス(D・V)』です。
原発事故や領土問題等、次々日本に起こる問題を一撃で解決する女性スーパーヒーローD・V。
その正体は、普段家で旦那に殴られている薄幸な主婦。彼女は「愛する人から暴力を振るわれないと変身出来ない」宇宙人で……、という前作と変わらぬブラックで過激、かつ観る側の倫理観を揺さぶる(3.11以降の日本に於ける)「9.11以降志向」の風刺作品です。
今回のテーマは「暴力」。これは9.11の時にも思ったことですが、人為的なテロであれ天災であれ一方的な攻撃や破壊に晒されると、我々は強く「暴力」を感じ、そして意図的、または無意識に、今度はそれを行使する側に回ることで救済を求める様に思います。
報復、防衛、隠蔽、責任追及、憐憫、八つ当たりなどと、あらゆるロジックをもって、暴力は自己正当化しながら「連鎖」すると。
3.11以降、我々や社会全体が大変攻撃的になっていると感じています。そんな世相に対し、この作品ではスーパーヒーローの活躍を通して、いかなる正当な理由、事情があるにせよ、まず「暴力は暴力である」という視点をキープしました。カニバル星人であつかった食肉同様、その「暴力」が是か非かは個々の観客に委ねます。
震災以降に飛び交う「短絡性」に対して、ストッパブルな「思考」を促す作品を目指しました。
D・Vは大変有能なスタッフが結集したおかげで、カニバル星人以上に満足のいく仕上がりになりました。2014年に完成して、現在までに10箇所の海外の映画祭に入選しています。
しかしながら現在の日本の社会において、欧米の「9.11以降」といったジャンルのものは未だ生まれていない様に感じます。単発の作品や追悼、検証のドキュメントはあっても、ムーブメント、カルチャーになるまでには至っていない。
まだ解決してない問題や、元々の国民性、社会風土もあるかもしれませんが、そういった意味では、今作も大半の日本人には「どう反応していいのか解らない」という評価になるかもしれません。日本人向けのネタが満載なのですが(笑)。
しかし、3.11は「対岸の火事」ではなく我々の問題です。「9.11以降」がそうであった様に、当事者だからこそ描ける「俯瞰」、そこから非当事者に伝えられる「普遍」はあると思うのです。
例えば『ゴジラ(1954)』はどうでしょう。怪獣という一つの嘘を起点に、害獣被害、震災、台風、空襲、原爆などと、あらゆる日本の社会問題が風刺的、露悪的に描かれ、かつそれが大ヒットして、いまだに愛されています。ほかならぬ日本で60年も前に「第二大戦以降」な作品が生み出され、世界に送り込まれていたのではないでしょうか。
受けた「痛み」を創作として吐き出すのは、クリエイションの基本原理の一つだとも考えます。
自主規制やタブー、現実逃避的な作風が好まれる昨今にあって、いかに主流、本流から外れていても、日本にあってしかるべき物との思いで「3.11以降」な『ダイナミック・ヴィーナス』を作りました。さしあたってこれが風刺物はこれで終わりにする予定ですが、この文章の最後にご覧になって頂ければ幸いです。
『ダイナミック・ヴィーナス』(22分)
*本連載に関するご意見・ご要望は「kkbest.books■gmail.com」までお送りください(■を@に変えてください)