唐、新羅を経て日本に根付いた奈良筆 「アートを生み出す道具もまたアートだ」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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唐、新羅を経て日本に根付いた奈良筆 「アートを生み出す道具もまたアートだ」

第5回 奈良筆 田中千代美さん

使う人、聞く人が喜んではじめて、完成する

 木簡に記された様々な文字は、筆によって描かれた。長い歴史を経てもその形が変わることなく、いつの時代も筆記道具として生き続ける筆。その誕生は2300年ほど前にさかのぼると言われている。日本では長く、中国から輸入した筆が使われていたが、遣唐使として中国へ渡った弘法大師空海が、筆製作技術を持ち帰り、奈良の地で製作を始めたのが日本産筆の最初だと考えられている。今から1200年ほど前のことだ。

田中さんが作成した奈良筆。

 現在も残る「奈良筆」の特長は、鹿、リス、馬、たぬき、羊、いたちなど様々な動物の毛をブレンドして1本の筆を作るところにある。すべての工芸をひとりで仕上げるのだ。30数年前に後継者育成事業を通して、奈良筆の伝統工芸士となった田中千代美さんの工房を訊ねた。

 

K 後継者育成事業がきっかけで奈良筆製作を始めたと聞きましたが、それ以前に奈良筆に興味はあったのですか?
田中 特別興味があったというわけではなかったですね。一般的な普通の主婦でしたから。
K しかし、そこから30年以上も続けている。奈良筆の魅力はどんなことなのでしょうか?
田中 とにかく奥が深いんですよ。筆にはたくさんの種類がありますし、いろんなものが作れるんです。いろいろな毛を混ぜて作るのですけれど、そのミックス加減、配合によっていろんな筆ができるんです。だけど、使う人が感じる「良い筆」もまた様々。だから、作り手が「これは最高の筆だ」と思っても、使う人が「これはアカンな」と思ったら、ダメなんです。書き手の方が使いやすく、書き手の手に合った筆、気に入って頂ける筆を作らないといけない。そこが私の中での大きな葛藤ですね。

白鳥の羽でつくった筆に驚くKさん。

K 僕は今まで、匠というのは「自分がこう思い、これを作るんだ」というのが、こだわりだと思っていました。でも今のお話を聞いていると、使ってくださる方が満足してもらうことが第一という、こだわりを感じました。その考えは、僕の音楽づくりにも共通するもをの感じます。「これ、かっこいいな。最高だな」と作る僕が感じても、リスナーが喜んでくれなければ、音楽という形にはならない。そういう部分で共感するものがあります。
田中 筆は芸術品ではないんです。美しいものと言ってもらえるのは嬉しいし、ありがたいけれど、筆は道具なんですよね。自分が作った道具を使って書かれた素晴らしく、美しい作品を見ると喜びを感じます。だからこそ、使って頂ける筆、道具を作らなければ意味がないと思っているんです。
K 僕はピアノを弾きます。ピアノが奏でる音楽はアートだと言われるのと同じように、ピアノ自体もまたアートだと僕は思うんです。だから、僕にとっては美しい作品を生む筆もまた、アートだと思います。「筆は道具です」とおっしゃる田中さんだからこそ、美しく、使いたい筆が作れるんだと感じます。

 今後はどんなことに挑戦したいですか?
田中 奈良筆は伝統工芸品なので、使う材料に規定があるのですが、いろいろな材料で筆を作ってみたいなと思っています。

●Kの視点
時代を越えた交流とつながり

奈良筆で書いたサイン。上々の出来にご満悦のKさん。

 1300年前、中国、韓国、日本にはさまざまな交流があり、たくさんの建物や文化、道具や作品が生まれ、その技術が継承されてきたことを改めて感じることができました。昔は大陸から日本へという流れが多かったと思います。でも今はその逆、日本の技術が大陸へと伝えられている部分も多いと思います。そう考えると時代を越えた交流があるんですよね。
 今回、久しぶりに筆を使わせてもらいました。筆でサインを書いてみたんです。実は、筆で書く、毛筆の経験は韓国でも小さいころにやっていたんです。言葉も文化も違う国ですが、同じような道具で、同じようなことをしているんですよね。子どもの頃に。そう思うと、とても強いつながりを感じました。

奈良筆 田中(ならふで たなか)

 

■住所 〒630-8382 奈良市公納堂町6
■営業時間 11:00~17:00(不定休)
■電話  090-8483-4018
http://www.narafude.jp/index.html

 

 

 

PROFILE
K(ケイ)
1983年韓国ソウル生まれ。2005年デビューし、「Only Human」が大ヒット。以降もピアノ弾き語りのスタイルで、シンガーソングライターとして、J-POP界で活躍している。2014年タレントの関根麻里と結婚。昨年、第一子が生まれた。
Kオフィシャルサイト http://www.club-k.cc/

●番組情報●
「伝統の継承~笑顔に逢いに」 
 三重テレビ 毎土20:25~20:55
KBS京都 毎土10:30~11:00
びわ湖放送 毎土10:30~11:00
奈良テレビ 毎日18:30~19:00 
11月26日、27日放送予定「堺緞通(さかいだんつう)~海を渡った伝統~」

 

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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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