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大手マスコミが読み間違えた、米大統領選「トランプ旋風」の背景にあるもの

ヒラリー・クリントンに「NO!」を突きつけたアメリカ国民の本音とは?

「大衆迎合主義」はラベリング

 アメリカでのトランプ人気について、「ヨーロッパにおける醜い民族主義」などと評されることがあります。

「ヨーロッパで今台頭している醜い民族主義とアメリカのトランプ氏の主張は、どちらも大衆迎合的民主主義であり、同じものである」という主旨です。私もトランプ現象とヨーロッパで起きていることは底流で結びつくものであるとは思っています。

 しかし、それは醜い民族主義でも不健全な大衆迎合的民族主義ではありません。むしろ健全だと思っています。

 トランプ氏自身の言葉に現われている過激な側面を擁護しているわけではありませんし、もちろん、トランプ氏を支持しているアメリカ人が不健全ということでもありません。また、大量の移民受け入れに反対しているヨーロッパの人たちが醜い民族主義者であるともまったく思いません。

 しかし、世界のメディア、あるいは言論界はたいていこういうふうに見ているわけです。そうでなければ噓がばれてしまうのです。彼らはずっと移民受け入れが良いことであると言い続けてきました。さらに大衆迎合主義だといって大衆を見下してきました。私たちはそういうメディア、またメディアに巣食う知識人の「きれいごと」に洗脳されてきたのです。

 例えば「人権を守らなければならない」という言い方があります。こうした意見に対しては誰も反対できません。しかし、こういうきれいごとと、アメリカやヨーロッパの現実には大きな乖離があります。こうした乖離について内外の言論人はほとんど取り上げることがない。だからこそトランプ氏の発言に支持が集まっているのです。

 私はこの問題が「世界的なグローバリズム対ナショナリズム」の対立構図のなかにあると見ています。つまり、ヒラリー・クリントン氏はじめ、ほかの共和党候補者はグローバリストなのです。彼等はアメリカの一般国民、特にプアーホワイト(白人の低所得者層)の声を吸い上げてはいませんい。

 ヨーロッパも同じです。EUという理想のために現実を無視してきました。現実社会で苦労している人々の声を、EUの理想のもとに掻き消してきた。それに対する一般の人々の声の反映のひとつの例が、イギリスのEU脱退です。

 移民政策にNOを突き付けている人たちがすべて極右であるはずがありません。こういうラベリングが却ってEU、またアメリカの分裂を招く結果にもなっています。

 私たちが注意しなければならないのは、「頭のなかで考えていることが、現場の現実とは乖離している」ということです。私は私なりに現場の感覚を身に着けてきたと自負しておりますが、まだまだ至らない点も多々あります。問題は「大衆迎合主義」というのがまったくのラベリングであるということです。大衆迎合的ということは、すでに価値判断が入ってしまっているということです。迎合という言葉も、大衆という言葉も“上から目線”になっているのです。

「アメリカの分断」に異議を唱えるトランプ支持者

 また、「トランプ候補の言動はアメリカ国内の様々な社会階層における断裂をあえて拡大させているかのように印象付けている」とも言われます。

 トランプ氏の言動はアメリカ社会を分断するというのですが、実際は逆です。すでにアメリカは分断されていて、それに対する批判がトランプ支持となって現れているのです。

 マイノリティとマジョリティによる分断、あるいは1%の富豪とそれ以外の分断、さらには白人と黒人の分断、いくらでもありますね。アメリカ社会は、戦後ずっと分断され続けてきたのです。これに対して異議を申し立てているのがトランプ氏とトランプ支持者なのです。

 トランプ支持者を一刀両断的に「プアーホワイト」のひと言で片づけていますが、決してそうではありません。アメリカ人のなかでも心ある人は、声に出さなくともトランプ氏の言葉に共感しています。今までのアメリカ大統領候補は「アメリカを否定」してきたからです。 

 やや過激な言い方になりますが、彼らはアメリカの国民のことは考えていませんでした。代わりにアメリカの富豪による世界戦略を考えてきたのです。

 

*『世界最古にして、最先端― 和の国・日本の民主主義 ~「日本再発見」講座』馬渕睦夫・著(KKベストセラーズ) より抜粋

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馬渕 睦夫

まぶち むつお

元駐ウクライナ兼モルドバ大使、元防衛大学校教授、現吉備国際大学客員教授。

1946年京都府生まれ。京都大学法学部3年在学中に外務公務員採用上級試験に合格し、1968年外務省入省。

1971年研修先のイギリス・ケンブリッジ大学経済学部卒業。2000年駐キューバ大使、2005年駐ウクライナ兼モルドバ大使を経て、2008年11月外務省退官。

 同年防衛大学校教授に就任し、2011年3月定年退職。2014年4月より現職。

 金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

 著書に、『国難の正体』(総和社)、『世界を操る支配者の正体』(講談社)、『日本「国体」の真実』(ビジネス社)、『そうか、だから日本は世界で尊敬されているのか! 』(ワック)などがある。


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  • 2016.09.24