国民の命と国家財政と、どっちが大事なのでしょうか【中野剛志・新型コロナ緊急事態宣言下の日本の指針を語る】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国民の命と国家財政と、どっちが大事なのでしょうか【中野剛志・新型コロナ緊急事態宣言下の日本の指針を語る】

◼️政治家の皆さん日本が財政危機ではないことを理解してください!

 しかし、残念ながら、日本政府は財政危機でカネがないと思い込んでいる人が、いまだに大勢いるようです。

 例えば、野田佳彦前総理は、こう言っています。

「ちまたで『ドイツですら新たに借金(政府が国債発行)するんだからやむを得ない』みたいな話があるんですよ。(新型コロナウイルスの感染拡大への対策で日本も)やむを得ないんですよ。赤字国債しか財源ない。だけど、ドイツと日本は全然違う。ドイツはずっと財政均衡を保ってきて、7年ぶり(の国債発行)じゃないですか。そういう国だから、こんな時に財政出動して、国債を発行してもいいんです。でも、野放図に財政が緩んだ国が、安直に赤字国債を発行するのは、しょうがないんだけど、将来は相当厳しく影響が出てくるという覚悟を持ってやっていかなければいけない」(2020年4月10日『朝日新聞DIGITAL』)

 これは、根本的に間違った認識です。

 野田前総理は、ドイツは日本と違って、財政に余裕があるから、財政赤字を拡大しても大丈夫な野田ではなく、大丈夫なのだと主張しています。

 しかし、話は逆でして、日本はデフォルトの可能性はゼロですが、ドイツにはむしろデフォルトの可能性があるのです。

 それは、なぜか。

 ドイツは、ユーロ加盟国で、自国通貨を発行していないからです!

 ドイツ国債はユーロ建てなので、ドイツ政府は、ユーロを発行して債務を返済することができないのです。

 野田前総理は、「ちまたで『ドイツですら新たに借金(政府が国債発行)するんだからやむを得ない』みたいな話があるんですよ」と述べていますが、これは、前の総理大臣よりも「ちまた」の方が圧倒的に正しい。

 ドイツはデフォルトのリスクがあるのに、財政支出を拡大したのです。

 それは、国民の命を守ることの方が、財政均衡よりも大事だという、当たり前の判断によるものです。
他方、大事なのでもう一度言いますが、自国通貨を発行する日本は、デフォルトのリスクはゼロです。
さて、東京都が、休業する事業者に対して「協力金」を交付しようとしています。政府が休業補償をしないので、業を煮やしたようです。
これについて、麻生太郎財務大臣は、次のようにコメントしたと報じられています。

「東京はそれで払うだけの、いわゆる資金が多分、東京都は持っているんだろうね。ただ他の県でそれやれるかね」(【註4】参照)

【註4】2020年4月10日配信『テレ朝news』
麻生大臣「東京は資金あるけど他県やれるかね」​
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20200410-00000069-ann-bus_all

 東京都以外の県が、協力金を交付する資金があるか疑問だというのは、その通りです。
しかし、東京都も、今は、財政は豊かかもしれませんが、デフォルトのリスクはあるのです。なぜなら、地方自治体は、通貨を発行できないからです。

 東京都はデフォルトのリスクがあるのに、財政支出を拡大したのです。

 それは、国民の命を守ることの方が、財政均衡よりも大事だという、当たり前の判断によるものです。
他方、何度でも繰り返しますが、自国通貨を発行する日本政府は、デフォルトのリスクはゼロです。
しかも、東京都や他の県の場合は、ドイツと違って、日本政府から資金を交付してもらえば、デフォルトのリスクはなくなります。
麻生大臣は、協力金の交付について「他の県でそれやれるかね」と言っていますが、それは、政府が県に資金を交付すれば、やれるのです。
ですから、政治家の皆さん、お願いですから、日本が財政危機ではないということを、いい加減、理解してください。

 国民の命がかかっているのです。

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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