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なぜ今、日本でマリー・アントワネットが注目されているのか?

アントワネットを介して見える、「歴史の逆輸入」

 現在、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーにて「マリー・アントワネット展」が開催されている。アントワネットにまつわるコレクション随一を誇るヴェルサイユ宮殿が全面監修したという本展覧会。その規模はフランスを差し置いて“世界初”であるという。
 なぜこんなにも広い世界で日本が選ばれたのか――、しかしあらためて考えると、私たち日本人には彼女を受け入れる基盤がすでに出来上がっているように感じられる。
 日本でマリー・アントワネットといえば、漫画『ベルサイユのばら』を連想する人がたくさんいるのではないだろうか。少女漫画の金字塔を打ち立てた『ベルばら』は、誰しもがその画を思い浮かべられるほど世に浸透している。彼女は遥か昔の外国フランスに生きた女性だが、私たちはアントワネットやルイ16世、ひいては彼女たちが生きた時代をよく知っているのだ。

“kawaii(カワイイ)”マリー・アントワネット

マリー・アントワネット

 彼女の世間一般で持たれているイメージといえば、わずか14歳でフランス王太子ルイ16世のもとへと嫁ぎ、がんじがらめのしきたりの中で自由奔放に振る舞い贅沢三昧、知らず知らずのうちに人々からの反発を買って、フランス革命という時代の中で断頭台の露と消えた悲劇の王妃――、といったところだろうか。
 彼女の贅沢は、好きな“オシャレ”に顕著に現れ、そんな華やかで可愛らしいところも、「kawaii」文化の日本人好みなのかもしれない。日本で人気を博したオードリー・へプバーンなど、可愛らしい印象のある女性は、どこか私たち日本人にもスッと入ってくるから不思議である。
 確かに、お洒落に多くのお金をつぎ込んだといわれるアントワネットは、当時から民衆たちに「着道楽」と非難轟々の言われようだった。しかし彼女の流行を作り上げていく力は、パリコレ(パリコレクション)に代表される現代のフランスのモード界を作ったといっても過言ではない。彼女の着飾った様子が版画などに多く残されているが、それはさながら現代のモード誌のよう。
 さらに彼女は既成品を購入するのではなく、お抱えデザイナーのローズ・ベルタンのデザインを見て意見を聞きながら、色合いや風合いを考えて生地を選び発注していた。まさに現在のオートクチュールの先駆けである。
 ドレスに限らず、壁紙や暖炉などの内装にはじまり、夏用冬用の壁布のデザインでさえ何度も打ち合わせを繰り返しては、優秀な職人たちに依頼して最高の空間を作り上げていった。フランス王妃というこれ以上にないパトロンによって、フランスのモード史は盛り上がりを見せたのだ。もしアントワネットがフランスに嫁いで来なかったら、現代のモード大国は他の国になっていた……とは言い過ぎだろうか。

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川口 清香

かわぐち さやか

ライター。西洋美術史を中心とし、主な共著に、『いちばん親切な 西洋美術史』(新星出版社)、『美少年美術史』(筑摩書房)、『知識ゼロからのキリスト教絵画入門』(幻冬舎)、『[名画]と読む危険な美女』(PHPエディターズグループ)、『ギリシア・ローマ神話の世界』(洋泉社)、『完全保存版 西洋美術を知りたい。』(学研)などがある。


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