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糖尿病、動脈硬化、認知症…… 歯周病が引き起こす合併症のホント

【第4回】斎藤先生がこっそり教える 歯医者のホント~「歯科の駆け込み寺」~

■「歯周病でがんになる」はウソ

 

 「このまま放っておくと、がんになります」

 斎藤正人歯科医師が院長を務める歯科医院には、セカンドオピニオンを求めて新たな患者が次々に訪れる。ここ数年、歯医者から「がんになる」と言われたと訴える患者が続出している。

 「歯周病や虫歯が進行した歯をそのままにしておくと、がんになるというのです。あなたの場合はかなり進行しているから、抜くしかないと──」

 ただ、まったく根拠のない話ではない。口の中にできる口腔がん(舌がん、歯肉がんなど)の最大のリスクファクターは喫煙。次いで、喫煙と飲酒の組み合わせ。そして、3番目に来るのが口の中の不潔。歯とは密接な関係がある。

 といっても、歯が悪くなるから、口の中が不潔になるわけではない。口の中が清潔に保たれないと、歯周病や虫歯を進行させてしまうという意味で、密接な関係があるのだ。つまり、口腔がんのリスクを減らすのと、歯の症状の悪化を防ぐのは、同様の意味があるということだ。

 「歯が“がんの元凶”などというのはとんでもない話。抜くという結論に至るのも早すぎる。私が診察したところ、抜かずに治療できるケースがほとんどでした」

 なのになぜ、抜歯を急ぐのか。

 「そのほうが歯医者側が効率よく稼げるからです。歯を守る治療よりも、抜くほうが保険点数が高く設定されている。しかも、抜いたあと、インプラントなど、さらに稼ぐ治療にもっていける。がんになると脅して、利益を上げようとするなんて、もはや医療に従事する人間とは言えません」

 こうした不安や恐怖心をあおるやり方は、営業や広告の分野では「ネガティブ・フレーム」と呼ばれる手法。この製品を使わなければ、こうしたデメリットが起こると言って、顧客の心を揺さぶって商品を買わせるのだ。この商品を買えば、こんないいことがあるとメリットを示すよりも、デメリットを伝えるほうが売上が伸びることがわかっている。まさに、このビジネスの手法と同じことを歯科医療現場でも実践し、儲けに結びつけようとする歯科医師が少なからず存在するということだ。

 「恐怖心を植えつけられたうえに、歯まで抜かれては、たまったものではない。歯医者のカネ儲けのために、抜かなくてもいい大事な歯を失うのですから、患者さんからすれば、これはもう詐欺に遭ったようなものです。こうしたことを平気でできる歯医者は『歯を治したらがんが消えた』と言いかねない」

 

 

 ■歯周病が関連する病気

 利益を上げるためにがんを持ち出すのはトンデモ歯医者と言わざるをえないが、歯の状態が他の疾患に影響を与える場合があるのは事実だ。特に問題になることが多いのは歯周病である。

 歯周病が進行すると、歯周ポケット(歯と歯ぐきのすき間)が深くなっていく。そのポケットの中で歯周病菌が繁殖し、増えていくのだ。そうなると、歯周病菌そのものや、菌が出す毒素、さらにはそこで起こる炎症によって発生する炎症性物質が悪さを始める。これらが血管内に入り込み、全身に運ばれ、さまざまな生活習慣病を引き起こしたり、その症状を悪化させるのである。

 もっとも知られているのは糖尿病との関係。糖尿病を発症すると、免疫細胞の働きが低下し、さまざまな合併症を引き起こすが、そのひとつに歯周病がある。実際、糖尿病患者が歯周病にかかっている率は、そうでない人に比べ高いことが報告されている。

 一方、歯周病になると、糖尿病の症状が悪化しやすいこともわかっている。歯周病による炎症性物質がインスリンの働きを低下させるのだ。つまり、糖尿病と歯周病は互いに悪影響を及ぼす関係になっているというわけだ。

 歯周病菌が動脈硬化を引き起こすこともわかっている。菌の刺激によって、動脈硬化を誘発する物質が発生。血管内にプラークと呼ばれる粥状の脂肪が沈着しやすくなり、血液の通り道が狭くなってしまうのである。動脈硬化が進むと、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞といった循環器系の疾患が起こりやすくなる。

 循環器の病気は生命を脅かす危険もあるので要注意だが、同様に歯周病と関連がある疾患で気をつけなければならないのは誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)。食べ物と一緒に口の中の歯周病菌を取り込み、むせたりすると、気管から肺の中に菌が入り込み、肺炎を引き起こすのだ。免疫力の落ちた高齢者に起こりやすく、命に直結する怖い病気だ。

 閉経後の女性に多い骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、歯周病と同時期に起こりやすい病気。骨粗鬆症は女性ホルモンのエストロゲンの分泌が低下すると発症する。歯周病もエストロゲンが減ってくると、進行しやすくなるのだ。

 

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KEYWORDS:

『歯医者のホントの話』 斎藤正人/田中幾太郎

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斎藤 正人

さいとう まさと

サイトウ歯科医院

院長

1953年東京都生まれ。神奈川歯科大学大学院卒。極力、歯を抜かずに残す治療を心がけ、「抜かない歯医者」を標榜する。一昨年9月『この歯医者がヤバい』(幻冬舎新書)を上梓。


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