新型コロナウイルス感染症は「風邪みたいなもの」だからこそタチが悪い【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義⑤】
命を守る講義⑤「新型コロナウイルスの真実」
感染症から命を守るための原理原則は、変わらない。この原則を体に染み込ませる決定版。
感染症専門医の第一人者・岩田健太郎神戸大学病院感染症教授の最新刊『新型コロナウイルスの真実』をもとに現在の感染者が急増する緊急事態に対し、私たちが「今、できる対策」を連続講義いただいた。「新型コロナウイルス感染症」から自分と家族、人々の命を守るために、今、私たちは何をすべきか。第5回目は、新型コロナウイルスの臨床症状を学びます。
■「風邪みたいなもの」だからこそタチが悪い
今回の新型コロナウイルスによる臨床症状と一般的な風邪の臨床症状を比べても、「最初の症状はほとんど変わらない」といわれています。「微妙な違いがある」という意見もあるにはありますが、症状だけで完全に区別するのは難しいです。
多くの人は感染しても全然症状がないままに終わってしまうし、症状が出ても喉が痛いとか、咳が出るとか、微熱が出るとかの軽いもので始まって、1週間ぐらいそんな症状が続き、8割の方はそのまま治ってしまいます。
残りの2割の方は症状が出てから1週間ぐらい経つとだんだん症状が悪くなり、息が苦しくなる気道感染の症状が出てきます。
2002年に流行したSARSや、典型的なインフルエンザの場合は発症初期からドーンと症状が出ます。でも新型コロナウイルス感染症の発症初期の症状は、ほとんど風邪みたいなものです。
じつは、これは非常にヤバいことなんです。
この問題が出てきた当初に、日本へチャーター便で最初に帰ってきた人の中に、症状の出た人が3人ほどいました。彼らが入院したときにも「これは風邪みたいなものなので、みんな自然に治りますよ」との学会発表があったりと、専門家の間でも割と軽く捉えていたところがありました。
風邪と区別がつきにくいところが新型コロナウイルス感染症の脅威となっている
でも、それこそが危ないところなんです。というのも、8割の人はたしかに勝手に治っちゃうんですけど、これは逆に言えば残り2割の人は勝手には治らないってことですよね。
2割、つまり5人に1人って結構な割合です。例えば10人程度の感染であれば、社会的にはどうってことはないけれど、500〜1000人規模の感染になるとかなりの問題になってくるし、武漢のように8万人もの感染者が出てくると、必然的にすごい数の方が重症化して、結果、何千人という方が亡くなってしまう。
罹り始めは症状が軽いので、みんな自分が罹患していることに気づかない。「ちょっと調子が悪いかな」くらいだから、仕事はするし、遊びにも行くし、公共交通機関だって使ってしまいます。
SARSやインフルエンザなら、すごくきつい症状が初めにボーンと出るので、多くの人は仕事を休むし、家で寝てるし、あるいは病院に行くわけです。少なくとも自分が病気である自覚はあるし、他人にうつすリスクがある自覚だってあるでしょう。
だけど今回の新型コロナウイルスは時限爆弾みたいなもので、ずっと普通に過ごして多くの人にうつす機会を宿主に与えておいてから、2割の人はドンと悪くなる。だからこそ拡がりを止めるのが極めて困難な、ものすごくタチが悪いウイルスなんです。
(「新型コロナウイルスの真実⑥」へつづく)
【注】本書『新型コロナウイルスの真実』は現在、発売即重版となりましたが、書店の休業などで「お手元に届かない」との多くの皆さまからお問い合わせが入っております。最新刊でありますが、本書の第1章と第2章を「全文再編」連載という形で、皆様にお届けいたします。著者・岩田健太郎先生のご厚意により、最適な感染症対策への一助となるように専門家として何度もお読みいただけるようにとご配慮いただきました。皆様やご家族、多くの方々の安全を祈念申し上げます。なお全国の書店で配本されていますが、くれぐれも「外出」の際は感染経路と感染の知識を踏まえ、ご行動されることを衷心よりお願い申し上げます。
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岩田健太郎医師の最新著書『新型コロナウイルス』は現在、ネット書店で手にいれづらくなっております。こちらで購入が可能です
【URL】https://bestsellers.official.ec/items/28385984