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【第2波に備え超重要】みんな疲れることをする! 日本の失敗の本質《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義⑮》

命を守る講義⑮「新型コロナウイルスの真実」


 感染症から命を守るための原理原則は、変わらない。この原則を体に染み込ませる決定版。感染症専門医の第一人者・岩田健太郎神戸大学病院感染症教授の最新刊『新型コロナウイルスの真実』をもとに現在の感染者が急増する緊急事態に対し、私たちが「今、できる対策」を連続講義いただいた。「新型コロナウイルス感染症」から自分と家族、人々の命を守るために、今、私たちは何をすべきか。第15回目は、感染症対策で失敗する「足し算の発想」から結果を出す「引き算の発想」への転換を学びます。


■環境を消毒してもきりがない

 要は、手指さえ清潔にし続けていればいい。例えば、ぼくたち医者が新型コロナウイルスの患者さんを診るときにはガウンを着て、手袋をしますけど、靴は普段の靴のままで、履き替えません。履き替えると、むしろ、靴を脱ぐ行為のほうがウイルスに触ってしまうリスクがあります。例えば床にウイルスが付いていても、別に靴の裏を舐めたりしなければ感染しないわけです。靴にくっついてるウイルスが口まで飛んでくることはないですから。飛沫はあくまで人からしか発生しないので、床が飛沫をつくったり靴が飛沫をつくったりすることは絶対にありません。

 昔は集中治療室に入るときに靴を履き替えたり、部屋の前にベタベタするマットを置いて、靴をベタベタさせてマットにウイルスをくっつけようとしていましたが(ぼくらは「人間ホイホイ」と呼んでました)、全く意味がないことが分かったので今はやっていません。

 家の中の消毒をどこまでやればいいか、気になっている方も多いと思います。消毒したいのなら、手すりやドアノブなど手で触れるところを中心にして、床は普段のとおり掃除すればいい。見た目がきれいであればそれでいいでしょう。それよりも、手指消毒さえしっかりしていればどこを触っても問題ないので、家のドアノブをきれいにするという発想よりは、手指消毒をしっかりするという発想のほうがより正しいんです。

 病院で人の手がよく触れるところとして、エスカレーターの手すりがありますね。特にご高齢の方は手すりに触れないと立っていられない人も多いので、手すりに触る機会が多い。それでは病院が、エスカレーターの手すりをどれくらい消毒しているかというと、とある病院ではお掃除の方が1日に1回消毒しています。それを聞くと「1日1回だと、その間にウイルスに触った人がいたら困るじゃないか」なんて言い出す人が出てくるかもしれませんが、それなら15分に1回消毒をしますか? でもその15 分の合間に誰か触るかもしれないですね。なら5分に1回にしますか? それでも不安なら3分に1回にするの……とか、この議論をするときりがないんです。こんなの無間地獄ですよ。

 意味のないことは、議論しないのが大事です。手すりを何分おきに消毒すれば正しいのかとか、エレベーターのボタンを何分おきに消毒するのが正しいのかという命題には、答えはありません。答えがないのなら、むしろどこにでもウイルスがいる前提で、手指消毒をして、鼻や口には触らないようにすることでリスクをヘッジしたほうが、より堅牢(けんろう)なやり方なんです。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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