「そうだ、恋愛工学民になろう!」、そのまえに。
現在観測 第17回
都会“だからこそ”、出会いがない。
地方ではまだまだ、会社の繋がりが強く「会社主催の、男女合同の飲み会」や「上司からの紹介でお見合いをする」という文化が残っています。中学・高校の同級生も近所に住んでいれば、幼なじみとの付き合いもそのまま継続でき、パパ友・ママ友に変化していく。仮に転勤等でその土地に訪れても、そのコミュニティに例えば同僚から招き入れられれば、問題なく過ごせるようになります。
しかし都会には、もう、自然と所属できるコミュニティはありません。かつては会社やご近所付き合いがその役割を担っていましたが、今は終身雇用ではないのが当たり前、労働形態も広がり、マンションの隣に誰が住んでいるかも知らない時代です。
そのなかで「どこで出会うのか」のハードルはぐんぐん上がっています。ごく普通に生活していたら、異性と話す機会はコンビニの店員さんくらい。趣味もアニメやゲームというひとりで完結するものだと、どこで異性と知り合うの、という問題になってきます。
その壁を打破する方法を男性が模索するなかで、爆発的にヒットしたのが「恋愛工学」でした。「恋愛工学」とは、進化生物学、心理学、金融工学などの既存の論理を応用した、言ってしまえば新たな「モテテク」です。
「恋愛工学」を提唱する藤沢数希氏は、外資系投資銀行に勤めた後、マーケットの定量分析、経済予測、トレーディング業務などに従事。現在は年収5,000万円のトレーダーという華やかな経歴の持ち主です。
恋愛工学で重要なのは、とにかくたくさんの異性に声をかけること。つまり、ナンパをし、初対面の相手の連絡先を聞き出すまでの心理学的な駆け引きで勝つ方法とも言えます。恋愛工学のメソッドを解説した小説『僕は愛を証明しようと思う。』でも、主人公は六本木や銀座、華やかな街で出会った女の子たちにガンガン声をかけ、DJが音楽をガンガン流すクラブや、バーでナンパを続けます。
ちょっと怪しげなナンパテクニックの本ならば、コンビニですら売っているこのご時世。恋愛工学は、クーリエジャポンで特集が組まれるほど社会現象化しました。丸の内を歩いていたら、巨大なビジョンに「今週の売り上げ第1位」の本として、『僕は愛を証明しようと思う。』が堂々と出ていて思わず二度見してしまったほど。丸の内で働いているような、おそらくは大手企業勤務の学歴の高い人たちにグッサリ刺さったのです。
しかし、恋愛工学は地方では成り立ちません。そもそもナンパをするほど異性がいないし、ナンパしなくても友達とのLINEで流れてくる飲み会の予定に挙手さえすれば、異性と出会えます。わざわざハイリスク・ローリターンなナンパに踏み出す必要はないのです。
わたしたちは、どこで恋愛をすべきか?
わたしは、本来花のJKだった時代、いわゆる「非モテ」でした。70kg近い体重、素っぴん、オタク趣味、すれ違う男子高校生にブスと言われゴミを投げつけられる。それでもモテたくて、どこに行けばわたしを相手にしてくれる異性がいるのかと血眼になって探した結果、サークルクラッシャーとなっていたのです。
生まれてからずっと東京で過ごしているわたしにとっても、恋愛をする場を探すのは凄まじく困難でした。ナンパではないけれど、多くの人にアタックし続けるという恋愛工学的な手法に走った理由は、やはり「どこで出会うの?」という問題が根本にあったからです。
けれども恋愛工学も、サークルクラッシャーも、真の意味で「愛し合える」相手を探すための手段とは、ややズレてしまいます。恋愛工学は「セックスできれば」、サークルクラッシャーは「サークルが崩壊すれば」そこで終了。その先、つまり将来をともに歩むパートナーを探すのは、全く違う工程が必要です。
今、都会で孤独で、もう恋愛工学に手を出すしかないのか……と思っている人には、まずひと呼吸置いてもらいたい、そう思います。都会のメリットは、人がたくさんいて、選択肢もたくさんあるところ。あなたの趣味や良いと感じられるものに共感してくれる人やコミュニティは、確実に存在します。
ミラーボールが回り、ガンガン音楽が鳴り響くクラブに行ったり、銀座のバーで飲んでいる女の子にさりげなく声をかけたりする以外にも、異性と出会う機会は作れます。例えば、彼女いない歴=年齢=32年だったわたしの友人は、もう恋愛は諦めよう、好きなことにお金をつぎ込もう、と踏み入れたトレーディングカードゲームのコミュニティで4歳年下の女の子と出会い、結婚。ほかにも、男子校から理系の職場、長い間女の子と話す機会すらなかったのに、たまたま行った登山サークルで知り合った女の子と同棲スタート、なんて話も聞きました。
まずは今、会社と家のローテーションをしている生活から一歩抜け出してみませんか。近所のバーや居酒屋、カルチャーセンター、趣味の仲間のオフ会。いつもと違う世界に踏み出すことが、恋愛への第一ステップになるはずです。
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