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「いい学校に行って、いい会社に就職しなさい」は本当にウソなんですか?

現在観測 第49回

2016年春に卒業した大学生の就職率は97.3%と、調査を始めた1997年以来最高となったことが発表されました。大学に行くこと、それもより偏差値の高い大学に行くことは、人生設計の一つと言っても過言ではないかもしれません。
名門大学からキャリア官僚を経て、フリーの道を選択した宇佐美典也氏に「いい大学、いい会社に行く意味」についてお聞きしました。

やっぱり「肩書き」は強かった!

「いい学校に行って、いい会社に就職しなさい!」

 

 この言葉は日本において擦り切れるほど使い古されてきた言葉のように思えます。これほど直接的でなくとも、誰しもが幼い頃に一度は聞いたことあるフレーズでしょう。

 私も物心ついた頃には学校のテストの点数が悪いと怒られたものですし、親に「やりたいことがないのなら、とりあえずいい会社に入っておけば損はない」というようなことをずっと言われ続けて育ってきました。

 幸か不幸か私はこの言葉に洗脳されて、小さな頃から「受験のための勉強」を一生懸命やってきまして、中学受験で都内のそれなりの名門中高一貫校に合格し、大学受験では晴れて国内最高峰である東京大学に合格。
 就職活動では(会社というわけではありませんが)経済産業省という名門組織に「キャリア官僚」という世間から見れば恵まれた立場で入省し、30歳までは「いい学校に行って、いい会社に就職しなさい!」という言葉を地で行くような人生を送ってきました。

 他方で31歳以降は大組織から離れてフリーエージェントとして生きるようになり、それまでの「肩書きで生きるレールの敷かれた世界」とは真反対の、不安定で何をするのも自分の意思次第の「自分の名前で生きる自由な世界」に生きるようになりました。

 こうした両極端の世界を生きてみて思うことは「いい学校に行って、いい会社に就職すれば損はない」という言葉は“それなりに”正しかったな〜、ということです。

 

企業は裸の人間と仕事をしているわけではない

 最近では「もう学歴だけで生きられる時代は終わった」とか「いい会社に就職してもいつ潰れるかわからない。公務員すらもはや安泰ではない」というようなことが叫ばれています。確かに「ただいい大学を出て、いい会社に入る」だけで生涯の生活が保証されるような時代はとっくに終わりつつあります。

 けれども自分を囲む環境が不安定になって来れば来るほど「信頼のおける名門の肩書きの履歴」というものが逆に活きてくるというのが私の実感です。もちろんその「肩書きの履歴」を活かせるかどうかは自分次第なんですけどね。水戸黄門の印籠みたいなものです。

 現在、私は再生可能エネルギーの開発のコンサルティングを主業としているのですが、こうした仕事ができるのも私が一度は「東大を卒業して、経済産業省で働いていた」という履歴があるからこそと強く感じます。

 もちろん一度仕事を受けてしまえば、あとはその内容で評価されるのがフリーエージェントの世界ですが、そもそも何の実績もない「宇佐美典也」、という人間に仕事を依頼してみようなどという奇特な人間・会社は存在しません。

 私という人間が「それなりの難関試験を突破して東大に入学し、経済産業省というエネルギー業界を所管する中央官庁に入省して仕事をしていた」という分かりやすい過去を評価するからこそ、「この若造を信頼して一度チャンスを与えてみるか」というように企業が判断してくれているのです。

 言うなれば、私の取引先の皆さんは「宇佐美典也」という裸の人間と仕事をしているのではなく、「東京大学出身で文系理系の幅を超えた最低限の知識基盤が保証され、経済産業省での官僚経験から役所の内外の事情をよく知る宇佐美典也」というキャラクターと仕事をしているのです。

 ただもちろん「肩書きの履歴」があれば独立してすぐに食べていけるのか、というとそういうわけでもありません。
 例えば私の大学の同級生で「世の中を変える新サービスでの起業」というフィールドにこだわるあまり、自分の「東大」という肩書きをうまく活かせず、多くの「起業家候補」と差別化ができないまま埋没して苦しんでいるような人も何人かいます。

 世の中、真の意味で「イノベーティブ」な人間など限られるのですから、「ダサい」「結局は肩書き頼りか」と笑われても、正面から「東大」なり「元官僚」なりといった肩書きの履歴をフルに活用して、ありふれたサービスでもいいからチャンスを掴みとったほうが合理的だと私は考えています。

 もちろんいい大学やいい会社の肩書きを経なくとも、早いうちからITやサービスや建築や会計といった分野の専門知識と実績を積み重ねて「手に職をつける」ことで、他者と差別化を測るような方法もあると思います。

 ただそうした選択をした場合、若いうちから職業選択の幅が狭められてしまうという側面もあります。
 やはり広い世の中を見てから人生を選べるという意味において「とりあえずやりたいことがないなら、いい学校に行って、いい会社に就職しなさい。そうしたら損はないから。」という言葉は今でもある程度説得力のある言葉なように思えます。

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宇佐美 典也

うさみ のりや

1981年、東京都生まれ。



暁星高校、東京大学経済学部を経て、経済産業省に入省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制の見直しを担当したのち、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)にて電機・IT分野の国家プロジェクトの立案およびマネジメントを担当。



2012年9月に経済産業省を退職。現在、再生可能エネルギー分野のコンサルティングやギャンブル依存症に関するロビイング活動を展開している。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)、『肩書き捨てたら地獄だった - 挫折した元官僚が教える「頼れない」時代の働き方』(中公新書ラクレ) など。


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