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トランプ当選に良い面があるとすれば。

政治的無関心という風潮を変える可能性

民主主義の熱を盛り上げていかなければならない

 リップマンやデューイが生きた20世紀前半のアメリカは、マスメディアが発達して、19世紀以前と比べれば遥かに膨大な数の人に情報が共有され、社会に影響を与えるようになった時代である。一方、21世紀の現代では、インターネットとSNSの普及によって従来のメディアを介さずとも多くの人に情報が共有され、社会に影響を与えるようになった。

 従来のメディアでは伝えられなかった情報が、SNSによって人々の間で直接やり取りされることで、共通の問題意識を分かち合い、その解決のために積極的にまとまって行動を起こすこともできるようになる。今回、その行動の「熱」が、トランプ当選という現象を生み出したという側面もあるのかもしれない。

 公共的な事柄に絶望することなく、問題を認識、共有して積極的に参加するということは、何であれ民主主義にとって不可欠なことである。だが、今回の「トランプ現象」に参加した人々は、デューイが期待したような「公衆」とは言えない。何故なら、「公衆」は知性と、知性的なコミュニケーションによって形成されるべきだとデューイは考えていたからだ。デューイにとって民主主義とは、異質な他者の存在を認め、他者を尊重しながらコミュニケーションが行われるものである。

 一方、「トランプ現象」において人々を突き動かしたのは、知性ではなく怒り、嫌悪、恐怖、不安といった負の情動であり、知性的に振る舞うエスタブリッシュメントへの反発であり、コミュニケーションを遮断するための「壁」への支持である。トランプは知性をからかい、負の情動を抱えた人々を扇動してまとめた。だからこそ、やはり今回の事態を招いたポピュリズムには、デューイが見出したような意味での希望を見出すことはできない。

 では、敗れた反トランプ派が行うべきことは何か。それは、ヒラリーが敗北演説で語った、「民主主義は四年に一度の選挙の時だけではなく、どんな時でも参加することを求めている」という言葉に示されている。つまり、負の情動を持って負の情動に敵対するのではなく、問題意識を伝え、共有して、まとまり、常に参加していこうとするということだ。

 その際には、知性によって今まで気づかなかった問題に気づき、知性的なコミュニケーションによって伝えることで、積極的な参加を促す「熱」を生み出していかなければならないだろう。これこそが、民主主義を負のポピュリズムに堕落させないために必要なことではないだろうか。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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