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天皇の「譲位」が実現した場合、天皇は何と呼ばれるのか

天皇の生前譲位問題におけるさまざまな疑問を解決

「太上天皇」もしくは「上皇」

 

 今上陛下の「生前譲位」が実現した場合、どのようなことを検討し準備すべきでしょうか。

 まず制度的な事項としては、譲位される天皇の「称号」と「敬称」と身分(待遇)に関することですが、それは先例に照らせば、異論なく決められると見られます。

 すなわち、称号については、今から千三百年余り前の「大宝(儀制)令」に「太上天皇〔譲位の帝の称する所〕」と定められており、その略称が「上皇」であります。従って、丁寧に申せば「太上天皇」、略して申せば「上皇」と称されることになると思われます。

 ちなみに、その先縦は、古代中国の『史記』と『漢書』にみえ、秦の始皇帝が父荘襄王の崩御後に「太上皇」と追尊し、また、漢の高宗が父君を太公から「太上皇」と尊称したことに由来します。顔師古の注に「太上は極尊の称なり。天子の父ゆえに、号して皇といへども、治国に預からざるゆゑに帝と言はざるなり」と説明されています。

 わが国では、皇極女帝が弟の孝徳天皇に譲位された時(645年)は、まだこの尊称がなく「皇祖母の尊」といわれていました。しかし、やがて持統女帝が在位11年目(697年)孫の軽皇子(文武天皇)に譲位された時から「太上天皇と号」されるようになり、(『扶桑略記』)それから間もなく「大宝令」に「太上天皇」の規定が設けられました。

 また、天皇の敬称は「大宝(儀制)令」に「陛下」を定められ、太上天皇も「陛下」と称されたことは、たとえば『東大寺献物帳』にも「太上天皇……先帝陛下(聖武上皇)、徳は乾坤を合せ、明は日月に並ぶ……」とみえます。

 その太上天皇(上皇)を否定した明治の典範では、第一七条に「天皇、太皇太后・皇太后・皇后の敬称は陛下とす」(戦後の典範では第二三条に「天皇、皇后・太皇太后、皇太后の敬称は、陛下とする」)と定めていますから、今後の上皇も「陛下」と敬称されるにちがいありません。

 ただ、今後の儀式などにおける位置は、おそらく夫妻を一対として、天皇・皇后の次に上皇・皇太后、その後に皇太子・同妃……という並び順になるものと思われます。

 このように称号・敬称の規定される上皇は、天皇の地位を退かれ、それに従って皇后が皇太后になられますが、おふたりとも、他の宮家皇族とは別格の「内廷皇族」の身分(待遇)を保持されるものとみられます。
『象徴天皇「高齢譲位」の真相より』構成】

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所 功

ところ いさお

名古屋大学史学科・同大学院修士課程卒業。法学博士(慶大)。文部省教科書調査官を経て、京都産業大学名誉教授、モラロジー研究所研究主幹。著者に『皇位継承のあり方』(PHP新書)など、共著に『元号』『皇位継承』(ともに文春新書)など、編著に『日本年号史大辞典』(雄山閣)など。


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