天皇の「生前譲位」にはなぜ、特例法ではなく皇室典範改正が必須なのか
天皇の生前譲位問題におけるさまざまな疑問を解決
生前譲位には「皇室典範」第四条の改正が必要
「生前譲位」(高齢退位)を実施するには、「皇室典範」の第四条を改正して、終身在位だけでなく生前退位もできるようにすることが本筋です。しかし、そこまですることが難しければ、「天皇陛下の意向を実現できるように」することこそ何よりも大切なことですから、「特別に法を整備する(いわゆる特例法を制定する)こと」でもやむをえないと思われます。
もちろん、後者であっても、関連していろいろ検討すべき課題(称号の順位、お住居・お務め、それに伴う人員・予算など)があります。
しかも、「皇室典範」をそのままにすれば、第八条で「皇嗣 」(天皇の継
嗣)は新天皇の男子(皇男子)を「皇太子」という(皇男孫があれば皇太孫という)としか定められていません。そのため、秋篠宮殿下は皇位継承の順序が第一となるにも拘わらず、皇嗣としての皇太弟に位置づけられません。従って、当面〝特例法〞で対処するにせよ、続いて早急に典範(第八条)の改正に取り組む必要があります。
それはさておき、今上陛下から現皇太子殿下への譲位(皇位継承)が行われますならば、直ちに元号(一世一元の年号)が改められ新しい元号になります。その改元は一体いつ行われることになるのか。これは日常生活にも直接影響する全国民の一大関心事だと思われますが、決して遠い先のことではありません。
皇室典範改正がなければ皇室は失われる
昨年の8月8日の天皇陛下の「お言葉」は、「個人としての考え」を、ギリギリのところまで述べられ、最後には次のように語っておられます。
「始めにも述べましたように、憲法の下、天皇は国政に関する権能を有しません。そうした中で、このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ、これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました。
国民の理解を得られることを、切に願っています。」
ここに今上陛下の念願(切望)がハッキリ示されています。たしかに天皇は、現行憲法の第四条で「国政に関する権能を有しない」と制約されています。しかしながら、それをふまえた上で、2千年近い天皇(皇室)の歴史を振り返り、その望ましい在り方を考えて「これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえて国の未来を築いていけるよう」にすることこそ、最も大事な基本理念と認識しておられます。いわば〝君民一体の国作り〞にほかなりません。
しかも、そのためには、天皇陛下ご自身が「象徴としてその務め」(役割)を「常に途切れることなく」果たすことによって「安定的に続いていくこと」が必要です。だからこそ、高齢化による「身体の衰え」が進めば「全身全霊をもって象徴への務めを果たしていくことが難しくなる」と自覚され、それを受け継ぐことのできる皇嗣(皇太子)に「天皇としての全権と責任を譲らなければならない」と決意されたことが、よく判ります。
これを裏返して、もう少し具体的に考えてみましょう。まことに畏れ多いことながら、もし83歳の今上陛下が、三笠宮崇仁親王のように100歳以上の長寿を保たれまして在位を続けられますと、現在56歳の皇太子殿下は、途中で「摂政」に就任されるとしても「天皇の代行」にすぎません。
そして皇太子殿下が、仮に80歳前後で皇位を継承され、もし20数年在位されますならば、その弟の秋篠宮殿下は100歳近くなって皇位を継がれることになりましょう。しかし、その長男の悠仁親王は、40数歳でようやく皇太子に立てられても、直ちに「摂政」を務めなければならない、というような事態になりかねません。
これが超高齢化の進む21世紀に、天皇の終身在位制度を固守した場合に予想される姿だとすれば、今上陛下が体現してこられたような「象徴天皇としての務め」をつねに途切れることなく「安定的に続けていくこと」は、極めて難しいでありましょう。
もちろん、現行法では、高齢化によりそれが出来なくなれば「摂政」に代行を委ねたらよいことになっています。しかし、大正天皇の例をみても、摂政を設置する決定も、それから崩御までの対応も、決して生易しいことではありません。
そうであれば、万一に備えて、現行典範第四条の「天皇が崩じたとき」は残しておき、新たに「又は天皇が退いたとき」を付け加えて、「皇嗣が直ちに即位する」という二つの道を開いておくことが、将来のためにも必要だと思われます。
【象徴天皇「高齢譲位」の真相より構成】