あおむろひろゆきのてくてく子育て日記〈第24話〉「布団の海」
奥さんが娘を連れて里帰り――「今のうちに好きなことを」と思ったものの……!?
初めての出産の時、退院後に妻と子どもは里帰りをしました。「奥さんの里帰り中は自由の身やな」これはたくさんの先輩方に言われたこと。「この先自分の時間なんて無くなるから、好きなことしておいた方がいいよ」と言われたので、奥さんを実家まで送り届けたその足で大好きな仮面ライダーのDVDを20本買って帰りました。
ひとりになってまず驚いたのが、夜がとても長いこと。DVDを見ながらご飯を食べて、お風呂に入ってDVDを見て、アイロンがけをしながらDVDを見て、それでもまだ23時。この調子だと里帰り中に見たいDVDは全部見れてしまうな……と喜んでいたのも、最初の夜の寝るまでの間だけ。布団に入ってさあ寝ようと思った時に突然寂しくなって「何これ!」と叫んでしまいました。だって布団が、あまりに広すぎるんですもの。それに、叫んだところで家の中はブゥーンという換気扇の音くらいしかしません。
結局、次の日から毎日のように妻の実家に通う生活が始まりました。幸い自転車で行ける距離だったので、仕事の後に駅から直接向かいます。
急な登り坂も気合の立ちこぎで走り抜けて、その先にある大きな川を渡る時はいつも冷たい風が頬を叩くので、息を止めて一気に駆け抜けました。妻の実家に着いたら門の中に自転車を停めて、ドアを静かに開けます。「こんばんは」と挨拶をすると「いらっしゃい」という声とともに、リビングから光が漏れてきて、赤ちゃんを抱いた妻が出迎えてくれました。身体の力がフーッと抜けていくのを感じながらコートを脱ぎます。
妻と、赤ちゃんの顔を眺めながら、今日あったことを報告し合います。毎日遅くなるまでたくさん話をして、ホクホクした気持ちで家に帰りました。寝る時はやっぱり寂しかったけれど、とても暖かい気持ちで眠ることができました。
約1か月間の里帰りを終えていよいよ共同生活が始まった日。シーンとしていた家に赤ちゃんの泣き声や妻の大きな笑い声が響いて、音のひとつひとつがとても愛おしかった記憶があります。その日の夜から3人で寝て、あんなに広々としていた布団が狭くなってしまった事が嬉しかったものです。
でも、そうやって喜んでいたのも新生児の間だけ。そのうち毎晩子どもが私の事をボコボコに蹴り倒して(何故!)どうしようもなくなってしまい、私だけ布団を別にすることになってしまいました……。