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西欧から嫌われ、国民から愛される―フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテ

インタビュー/『アメリカに喧嘩を売る国 フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテの政治手腕』 著者・古谷経衡

ドゥテルテは本当に「暴言大統領」なのか? 知られざるフィリピン苦悩の500年から、大国アメリカにモノ言う大統領誕生まで。激動の東アジア情勢を左右する国の、歴史と展望をダイナミックに描いた一冊(2017年1月26日、全国書店等で販売開始)。『アメリカに喧嘩を売る国』の著者・古谷経衡氏に、現地フィリピン取材の様子や国民に慕われるドゥテルテ大統領ついて語ってもらった。

Q1 まず、今、このテーマで本書を執筆しようと思った動機をお聞かせください。

古谷:フィリピンって、私たち日本人からみると〝心理的〟にちょっと遠い存在ですよね。例えば、アジアで旅行に行くといったら、韓国、台湾、中国、あるいはちょっと飛んでベトナムやタイといったところを思い浮かべる。インドネシアもデヴィ夫人がいるから(笑)ちょっと興味があるかなぁ〜という感じですね。ところがどういうわけかフィリピンだけが我々の興味からスポッと抜け落ちている感じがするんです。私たちはこれまで、なんでフィリピンだけがそんなふうに抜け落ちているのか、疑問すら持たなかった。まさにアジアの盲点と呼んでもよい。

 2016年の夏にロドリゴ・ドゥテルテが第16代大統領に選出されました。彼は大国アメリカに対しても遠慮なくモノを言う大統領で、その過激な言動が日本を含め多くのメディアに注目されるようになりました。僕も大いに注目したなかの一人ですが、よくよく調べてみると、フィリピンってものすごく面白い国なんですね。なのに、フィリピンをテーマにした本は近年あまり出ていない。それなら僕が書いてやろう、と思ったのがこの本を書こうとしたそもそもの動機です。

 

Q2 何度も現地取材をされていますが、特に印象に残ったことなどありましたらお聴かせください。

古谷:フィリピンはまだまだ発展途上国なので〝貧しい〟という印象はやはりありますね。フィリピンだけじゃなくて、他の途上国でも同様の貧しさを感じるわけですが、韓国や中国、台湾のような国々と比べるとやはり〝貧しい〟という印象は強く残ります。だって今の中国、韓国、台湾などにはストリートチルドレンのようなのはいないですから。韓国がいくら格差の大きな国だといっても、さすがにストリートチルドレンはいない。現在のフィリピンの格差は凄まじく、ストリートチルドレンは少し大きい街には普通にいます。それにマニラなどでは、禁止されているはずの売春婦が公然と存在する。日本がバブルに浮かれていた80〜90年代には、日本からの「買春ツアー」が沢山ありました。当時はフィリピンだけでなく、韓国とか台湾にも同じような目的で日本の男どもが出かけていました。現在は、逆に韓国や台湾の男がフィリピンに買春に来る光景に出くわす。この国辱的な話は、情けないことに昔だけのことではないのです。今でもマニラあたりでは同様の光景を目にすることが多々あります。

 先ほども言ったようにフィリピンという国自体が〝心理的〟に遠い国なので、マニラから遠く離れたダバオの町はもっと遠い感じがします。そんな町があることすら日本人の多くは知らないのではないでしょうか。

 でも、本書でも詳しく紹介していますが、ダバオは戦前から日本人がたくさん住んでいた町なんです。日本人はそのことをすっかり忘れているわけです。実際、飛行機でも乗り継ぎしないと行けないですから。

 

Q3 ドゥテルテの自宅など写真をたくさん撮られていますが、撮影規制のようなものはなかったのですか?

古谷:昨年末、僕はダバオにあるドゥテルテの自宅を尋ねて行きました。「アジアの暴君」とも言われるくらいの大統領の自宅ですから、それなりの立派な邸宅を予想して行ったのですが、実際に見る彼の自宅は拍子抜けするほど質素な家なんです。

 大統領の自宅ですから、普通、一般人は近寄れないと思うのですが、外国人の僕でも家のすぐそばまで行けたんです。家の中に入ったわけではないんですけど、入ったようなもんです。だってドゥテルテの自宅は、道路に面して普通に建っているので、誰でもわりと簡単に近づいて見ることが出来るんです。警備兵の詰め所は3か所あるのですが、パスポートを見せれば家の写真を撮っても何も言われません。

 なにせドゥテルテ大統領の支持率はものすごく高いので、彼を抹殺してやろうという人はあまりいないんでしょうね。あるいは、彼を殺ってやろうと思う人は既に死んじゃっているのかもしれない(笑)。どっちかですよね。いずれにしても報道規制のようなものはまったくなかったですね。

 

Q4 ドゥテルテというと、麻薬撲滅対策に見られるような徹底した「悪の根絶」というイメージがあります。また本書では「タバコ、酒類への徹底した規制」も行われているとあります。これらの取締り・規制ついて国民からの反発はないのでしょうか?

古谷:僕が見聞した限りでは、ドゥテルテが大嫌いという人とは一人も出逢わなかったですね。「まあ、あんな感じだよ、しょうがないよね」と言う人はいましたけど、「嫌い!」という人は一人もいなかった。ほとんどの人が彼のことを「好き!」って言っていました。

とにかく私たちが想像する以上にこの国では麻薬の被害が酷いんですよ。また、それが貧困の連鎖を生んでもいるわけです。

 それから、フィリピン南部(ミンダナオ島)にはイスラーム教徒が住んでいるんですが、この地方ではマルコス政権のときに反政府テロが繰り返され、住民はさんざんな目に遭ったんです。とにかく治安の悪さが国全体に及んでいる。だからダバオ市長時代から大統領になった今も徹底して続けられているドゥテルテの麻薬撲滅戦争は、国民から大きな支持を受けているのだと思います。

 タバコはダバオでは公の場では完全禁煙です。でもタバコを吸えないからといって発狂する人はいませんからね。とにかくダバオの街は昔に比べたら平穏なものです。ドゥテルテが30年かけてダバオをそんな住みよい街にしたんです。彼はポピュリズム的手法で大統領になったのではないのです。長年にわたって積み重ねてきた政治実績があるからこそ国民の大きな支持があるのです。

 厳しい取締りに対する反発はほとんど見ないですね。麻薬取締中に起きた誤射とか便乗犯罪でとばっちりを食ったという可哀想な人もいますけれど、ドゥテルテの政策に対する国民からの反発はほとんどないように感じます。反ドゥテルテ・デモなんて聞いたこともありませんし、そんな機運すらみえない。言論統制をやっているわけでもないし、強権政治というほどのものでもないです。マルコスの戒厳令時代に比べれば、ドゥテルテは強権政治とはほど遠いでしょう。

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古谷 経衡

ふるや つねひら

評論家、著述家。1982年北海道札幌市生まれ。立命館大学文学部史学科卒。インターネットと「保守」、メディア問題、アニメ評論など多岐にわたって評論、執筆活動を行っている。主な著作に、『知られざる台湾の「反韓」』(PHP研究所)、『もう、無韓心でいい』(ワック)、『反日メディアの正体』『欲望のすすめ』(小社)など。

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  • 2017.01.26