オバマの「チェンジ」とは後退だったのか?――退任演説から見えた民主主義の哲学 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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オバマの「チェンジ」とは後退だったのか?――退任演説から見えた民主主義の哲学

アメリカが求めた「チェンジ」の正体

オバマが要求する絶え間ない「チェンジ」

「私たちの国家は始めから非の打ち所が無かったわけではありません。しかし、私たちは後に続く者のために、生活をより良いものにし、チェンジを起こすための力を示してきました。これこそが、私たちがアメリカは特別だと言うことの意味なのです。たしかに、私たちの前進は一筋縄ではいきませんでした。民主主義を実際に行っていくことはいつも困難に直面し、争いを引き起こします。時に血を流すこともありました。二歩進んで一歩後退するように感じられることもしょっちゅうです。それでも長い目で見れば、アメリカの道のりは、前へ進もうとする運動、すなわち、限られた誰かではなく全ての人を受け容れるという建国の理念を絶え間なく拡大させていく運動によって規定されてきたのです」

 このような言葉からも、オバマが訴えた「チェンジ」とは、過去から継続され、問題に直面した時には改善点を見出し、未来へ向けて終わることなく変化し続けていくという、アメリカの建国以来の理念を受け継いだものだったと言えるだろう。

 この演説から10日後に就任したトランプ大統領の支持率は45%に留まり、各地で反トランプのデモが激化していることが伝えられている。民主主義がポピュリズムを生み出したと絶望を感じる者も少なくないだろう。投票率は低下し、政治汚職はなくならず、党派的対立は議会を麻痺させ続ける。こういった現状を前にして、オバマは次のように訴える。

「民主主義を当たり前のものと思い込んだ時、私たちの民主主義はいつでも脅威にさらされるのです」
「私たちの全てが、党派に関わりなく、民主主義の制度を再構築するための任務に身を投じなければなりません。民主主義の先進国でアメリカの投票率が最も低いのであれば、投票を難しくするのではなく容易にしていくべきです。公共機関への信頼が低下しているなら、政治への金銭的汚職を減らす努力を行い、透明性の原則と公職の倫理を主張していかなければなりません。議会が機能していないのならば、選挙区の政治家に対して良識を守り極論で凝り固まらないように呼びかけていきましょう」
「熱心で用心深い民主主義の擁護者になるという責任が、私たちにはあります。それは、この偉大な国家を改善するための継続的な挑戦として与えられた喜ばしい任務なのです。私たちにはみな、外見上の違いがあるからこそ、実際のところ、全員が同じ一つの肩書を共有しています。それは、民主主義において最も重要な役割を担う者。市民、市民です」
「民主主義は皆さんを必要としています。選挙がある時や、自分たちの狭い利益が取り沙汰されている時だけではなく、生きている時間の全てにおいて必要としているのです」

 

 問題に直面していることが明らかなのであれば、それを嘆いたり批判したりするだけではなく、人任せにせずに、普通の人びとが改善のために自ら実際の行動を起こしていけば良い。
 奴隷制を持ち、女性の社会進出が抑圧され、労働者が長時間労働と貧困にあえぎ、有色人種が差別され、同性愛者が迫害されてきたかつてのアメリカは、全ての人を受け容れるとする建国以来の民主主義の理念を受け継ぎ、その時々に直面した問題を現実的に改善するためのチェンジを絶え間なく続けてきた。
 だからこそ、たとえ今、どのような問題を抱えていたとしても、絶え間なく「チェンジ」を続けていけば、やがて改善し、乗り越えていくことができるとする、未来への希望と楽観主義が、オバマの言葉の中に込められているのである。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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