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「明日の社会より今日の射精」『裏モノ JAPAN』から読み解く買春男性

見えない買春の現場 「JKビジネス」のリアル 第3回

■『裏モノJAPAN』の読者層

『裏モノ』の読者層は、編集部に送られてくる読者ハガキなどから推測すると、40~60代の男性が8割を占める。長年購読している人も多く、創刊当時に30歳前後だった人が多い。半数以上は独身だと思われる。子持ちは少ない。

 鈴木さんは入社前、『裏モノ』読者の職業については、読者ハガキやネタ投稿者のスペックから判断して、トラック運転手などのブルーカラーが多いのではという印象を持っていた。しかし実際は、そうした人は全体の5割程度という実感だった。営業職や公務員、そして無職の人も多い。
 読者によって情報リテラシーは大きく異なるという。上位のレベルになるとIT機器を駆使して、ハッキングや監視、盗撮などを行っている。そしてそれをネタとして投稿してくる。

 一方で、40代以上の読者の中には、携帯をそもそも持っておらず、電話やハガキで編集部に連絡してくる人もいる。そういった情報リテラシーの高くない読者は、あまり主体的に活動するタイプではなく、ワリキリ(援助交際などの個人間の売買春。「お金で割り切ったお付き合い」の略)もナンパもせず、純粋に読者として『裏モノ』を読んでいる人が多い。
 あくまで個人で読み、個人で実践する読者が多数派だが、20?30代の若い読者の場合、仲間内で『裏モノ』を読み合っているケースがある。誌面で紹介されていたナンパスポットに行ってみたり、特集で評価の高かったアプリやサイトを使ってセフレを見つけたりした後に、自分の体験を武勇伝的に紹介しあうホモソーシャルな体育会コミュニケーションもあるという。

 一般的な雑誌は専門家や大学教授、経営者から情報を聞き出すが、『裏モノ』の意義は「素人が実践できる、素人にとって意味のあるコンテンツ」なので、読者自身がネタ元になる。編集部に届く電話やハガキが、そのままネタ元になる。
 コンテンツの生産者(作り手)と消費者(受け手)が同一であり、閉じた円環の中で情報が循環しているため、外部からの視点や批判が入らず、一歩間違えれば反社会的な方向に向かいがちだとも言える。「素人(の男性)でもできる」かつ「素人(の女性)とできる」ための情報や技術が理想だとすれば、どうしても反社会性を帯びざるを得ない。
 なお首都圏以外の地方からは、ワリキリネタはあまり届かないという。売買春に対するアクセシビリティ(利用しやすさの度合い)は都市によって異なる。東京や大阪は、出会いカフェや出会い系サイト、立ちんぼなどが多いため売買春がしやすい街だが、地方は必ずしもそうではない。

『裏モノ』読者の特徴として挙げられるのは、いわゆる社会問題に興味が無いことだ。芸能人の不倫報道を見ても、「それで俺の明日からの生活に何が変わるの?」というイメージだ。分かりやすく言えば、明日の社会より今日の射精のことを考えている人が多いということかもしれない。
 全ての女に値段がつくとは思っていないが、一部の女には値段がつくことがある、という認識でいる。事実、出会いカフェやサイトでは、女性に値段がつけられ、売られているのだから。『裏モノ』の記事の中には、女性が自分の身体に値段をつける瞬間のルポ=援助交際デビューの女とセックスするという企画もある。

 自らが能動的に「女を落とす」「口説く」ということに興味を持つ読者は多くない。口説きのコミュニケーション志向は乏しく、単純に「女とやる」ことに興味がある。それゆえ手段は何でもいい。手段を問わないとなると、当然反社会性は増す。
 かつて『裏モノ』で「出会い系斡旋師」という職業が紹介されたことがある。出会い系サイトで知り合った女とメールでやりとりを交わし、その女とセックスする約束をとりつけた上で、依頼者にその女性とセックスする権利を売るという仕事だ。相場は2?3万円程度。つまり、ここでは女性を口説く作業がアウトソーシングされている。待ち合わせ場所に行くと、依頼者の目の前にはすぐにやれるオナホールが立っているというわけだ。
「見えない買春の現場 『JKビジネス』のリアル」より構成)

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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