19歳で出産、夫は覚せい剤で逮捕、そして命を絶った――シンママの「絶望」と「愛」《日本の最貧困地帯 沖縄のリアル②》【神里純平】
日本の最貧困地帯 沖縄のリアル②
■「お前がお父さんを殺したんだろ!」留置場での叫び
冒頭で私は、佐倉さんの誘いをはぐらかし続けてきたと書いたが一度だけ頼まれごとを聞いたことがある。
大輔さんが、覚せい剤で二度目に逮捕された時、留置場で首吊り自殺をした。私は長男を留置場に連れて行って欲しいと頼まれたのだ。
佐倉さんの長男のいくや君は、少しだけグレているような面影がある、15歳の中学生だった。お母さんがハーフなだけあってイケメンだ。
道中、彼はiPhoneで何やら英語の歌を延々とループで流していた。
「何の曲??」と私が聞くと、
「お父さんが好きだった曲だよ」と少しだけ笑顔を見せてくれた。
「チクタクと時計の針が時を刻むごとに時間は過ぎていき、人は数秒で自分の運命を決めていく。人生を良くするもより悪くするも数秒の判断で決まる」
そんな感じの内容であった。
留置場に案内してもらい、私は大輔さんと初対面した。
いくや君と一緒に大輔さんの髪と顔を触った。とても冷たかったが、まだ生きているようだった。
しかし鼻には血の痕がありまぶたは真っ赤だ。口は半開きで唇もとても乾燥していて割れている。
それを見ていくや君は、
「お前がお父さんを殺したんだろ!」と案内してくれた警察官にくってかかった。今にも殴りかかりそうだ。
私は慌てて、間に割って入った。
「1週間も意識不明で水を飲んでなかったから唇は乾燥して割れている」「冷蔵庫のようなところに数日間入ったままだったからまぶたや鼻の先はやけどする」と丁寧に説明した。
いくや君の大きな目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
その後、佐倉さんの家に戻り、ことの顛末を報告した。
彼女のわがままで教会で式を挙げた時の神父さんに言われた言葉を思い出したと言ってくれた。
「死が2人を分かつまで」
覚せい剤に手を出していた、自分を借金漬けにもした、子供達が満足できるような養育費を入れることもほとんどなかった。しかし夫婦でなくなっても、佐倉さんの大輔さんに対する愛は変わらなかった。もちろん子供達にとっては掛け替えのない父親であった。
絶望の中にあったひとつの「愛」に、私は救われたような気がした。
※注 本文に出てくる氏名は全て仮名です。
文:神里純平