トランプが離脱署名で議論に。「EPA」「FTA」との違い、分かっていますか? 3分で分かるトレンドワード【TPP】
【TPP】を慶應義塾大学教授・渡邊頼純氏が徹底解説①
トオルくん…学生時代の付け焼き刃の勉強がたたり、ニュースが分からないことだらけ。素朴すぎる疑問を発してよく相手を困らせる。20代会社員。
シズカちゃん…しっかり者で、いつも「これって〇〇ということですよね」とまとめてくれる。でもじつは結構天然ボケ。20代会社員。トオルとは同僚。
●EUに匹敵する、アジア太平洋地域のネットワーク
シズカ…アメリカと反対に日本は、TPP参加をかなりプッシュしていた印象だわ。日本経済にはどういうメリットがあるの? 専門の先生に聞いてみましょうよ。
トオル…ちょっと待った! せっかく先生に聞くならTPPのそもそもの意味から教えてほしいな。じつは知ったかぶりしている所もあって。
シズカ…私もその方が助かるわ(笑)。慶應義塾大学教授の渡邊頼純先生、基本的な所から教えてください!
渡邊…TPP(=Trans Pacific Partnership)を辞書的に定義するなら「環太平洋地域における経済連携協定」となります。ヨーロッパのEUに匹敵する、アジア太平洋地域のネットワークの構築を目指しており、現代の貿易政策の中で最も注目される取り組みです。現在交渉に参加しているのは日本とアメリカの他、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの12か国です。トランプがTPP離脱を唱えるまでは、2015年10月のアトランタ閣僚会合において、大筋合意、2016年2月のニュージーランド・オークランドでのTPP署名式で、協定が署名されていました。
トオル…なるほど。大雑把に考えると、TPPは「EUのアジア太平洋地域版」っていう認識でもいいのかな。
渡邊…確かに似てはいますが、その単純化はややざっくりし過ぎです。EUは関税同盟を基礎としており、EU加盟国はそれぞれ各国ごとの通商政策や関税というものを持っていません。対してTPPはFTA(=Free Trade Agreement)ですので、域内の関税を撤廃し自由貿易を行うという点ではEUと同じですが、TPP加盟国はそれぞれの通商政策を維持し対域外に対してはそれぞれ各国ごとの関税を賦課します。英国のEU脱退はまさに前者から後者への移行を意味します。
シズカ…なるほど、枠外に対する通商政策や関税の有無が違う点ね。
トオル…ちなみに毎回混乱してしまうんですけど、いまも出てきた「FTA」とか「EPA」といった同じ3文字単語がありますよね。これはそれぞれどう違うんですか。
渡邊…意味が重なりあっている部分もあって、それぞれを厳密に区別するのはじつは難しいのですが、FTAは「自由貿易協定」。WTO(世界貿易機関)体制における「最恵国待遇禁止」(加盟国の間で貿易を行う上での差別待遇禁止)の例外形である自由貿易地域を設立するための協定です。EUの関税同盟(加盟国間の関税・貿易制限を撤廃し、加盟国以外の国に対しては共通の関税率を設定する)にも似ていますが、EUが域外に対して共通関税を設定するのに対し、FTAでは設けていません。TPPも域外への制限は決めていないので、関税同盟というよりFTAの一種と言える。次にEPA(=Economic Partnership Agreement)は「経済連携協定」と訳されますが、これもFTAの一種で、政策意図として関税自由化を超える包括的な経済協定という趣旨からEPAと呼ぶようになっています。
シズカ…FTAという大きなくくりがあって、その中にTPP、EPAがあるというイメージかしら。
トオル…なるほど、やっとスッキリした! それで改めてTPPが日本経済に与えるメリットは何なのでしょうか。
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