『三島由紀夫vs東大全共闘』の茶番に熱狂した人たちへ
日本は頭が空っぽな国
■当時も今も、三島はあまり理解されていない
三島は保守主義者だったが、死ぬ前の数年間は右翼に転向した。念のため言っておくが、保守と右翼は水と油である。保守は理想を警戒するが、右翼は理想主義者である。結局、この討論会も含めて、先述した小説家や評論家が言うのとは逆に、三島は「言葉に溺れて」いったのだと思う。
当時も今も、三島はあまり理解されていない。
お隣韓国でも、三島に関するアホな記事が多い。
「デイリー新潮」によると、駐韓大使の冨田浩司が、三島由紀夫の娘婿にあたる人物であるとして、ネガティブな報道をしているらしい。政権寄りの報道姿勢で知られるソウル新聞は「極右作家の娘婿」という見出しで報じた。保守系メディアの中央日報は、三島は「安倍首相の憲法改正の試みの端緒になった」とこじつけたという。
これはアホすぎ。安倍の憲法観と三島の憲法観は真逆。三島が生きていたら、安倍の改憲は全否定していたはず。三島が警戒したのは右と左から発生する全体主義だった。それとアメリカ隷属化を確定させる改憲。三島は戦後憲法の欺瞞を批判したが、安倍改憲案は九条加憲を含めて、欺瞞の上に欺瞞を重ねて、憲法を空洞化するもの。
安倍は改憲派が積み重ねてきたロジックを完全に破壊した。本来なら「改憲派」が率先して自衛隊を愚弄する安倍の改憲を批判しなくてはいけないのに。要するに改憲を唱えてきた連中の多くがやってきたことは「ままごと」ということだ。
情弱のネトウヨ向け月刊誌はどうでもいい。害はあるが、バカがバカに向けて確信犯的に作っているので、何を言ってもムダである。悪質なのは、危機を感知する能力を持ちながら、黙っていた保守である。
ついに日本政府が「北方領土」という言葉を使うなと言い出した。すでに二〇一九年版の外交青書で「北方四島は日本に帰属する」との表現が削除されていたが、安倍と周辺の一味は売国どころか、上納金と一緒に国土をプーチンに献上してしまった。「ロシアに叱られないようにする」ことが行動基準の国。
絶望し、憤死、諌死(かんし)した三島だが、あの時代のほうがまだマシだった。
《私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら日本はなくなってしまうのではないかという感を日増しに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである》(「果たし得ていない約束」)
日本はすでに経済大国ですらない。貧困で抜け目しかない、頭が空っぽな国が残った。バカがバカを担いできた当然の結果である。
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