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ノムさん、ファースト転向を言い渡された過去「今の自分を変えないと」

野村克也さん3月毎日更新 Q10.キャッチャーに復帰するために、具体的にはどんな練習をしたんですか?

プロ2年目。まさかのファースト転向を言い渡される。しかしキャッチャーに対する思いは捨てきれず……。肩を強くするために筋力トレーニングに取り組んだ。

柔軟性を持って生きたほうがどんな可能性を秘めているわからない

 プロ2年目に、肩が弱いことからファースト転向を命じられたわけですが、私としては、南海ホークスでレギュラーを獲得するにはキャッチャーしかないと考えていました。そこで、先輩たちに肩を強くする方法をいろいろと聞いてみたところ、口を揃えて言うのが、
「肩が強い、足が速い、バッターがボールを遠くに飛ばす。そういった素質は持って生まれたものだから努力したって無駄だ」
 ということでした。もう、がっかりしましてね(笑)。でも、「本当にそうなのだろうか?」という疑問が沸くとともに、先輩たちに対する反発心もあって、当時タブーとされていた筋力トレーニングに目をつけたんですよ。もともとプロ1年目のシーズンオフにクビを言い渡された身、2年目も同じような練習をして現状維持なら、再びクビ宣告を受けるのがオチ。誰も取り組んでいないからこそ、筋力トレーニングは今の自分を変えるためにも必要ではないかと考えたんですよね。

写真/高橋亘

 当時のプロ野球界では鉄棒も禁止されていましたが、私はそんなことを気にせず、2軍の合宿所の庭にあった鉄棒で懸垂を繰り返しました。部屋に戻ると腕立て伏せをし、鉄アレイで肩や腕を鍛えたり、腹筋もただ仰向けになって両足を上げるだけでは効果が薄いと考えて、足首にバーベルをヒモで括りつけたり……。筋力トレーニングのメニューなど何も知らない中、自分なりにいろいろと工夫して全身の筋肉を鍛えていきました。
 そんな姿を見た周囲からは「そんなことはやめとけ」と何度も言われましたが、こちらにしてみれば「大きなお世話だ」と(笑)。恵まれた素質や実力もなく、不器用な選手だった私が、他の選手たちと同じ時間、同じ量、同じ内容の練習をしていたのではレギュラーになることなどできません。みんなが遊んでいる時間や休んでいる時間にいかに努力するか。肩が強くなるという確信があったわけではないですが、とにかく自分が考えたことを信じて、いかに地道にこなしていくか。私にはもうそれしかなかったんですよね。

 もちろん即効性はなかったんですが、そんな日々を続けて3ヵ月ほど過ぎた頃ですかね、遠投の練習のとき、以前よりもボールを遠くに投げられるようになったんです。さらに日を追うごとにその距離が延びていった。今思えば、遠投は全身を使う運動ですから、肩や腕だけではなく全身の筋肉を鍛えたことが、肩を強くするだけではなく遠投力にもつながったんでしょうね。そして、それが2軍の監督の目に留まり、2年目の秋にキャッチャーに復帰することができたんです。
 つまり私の練習方法は間違っていなかったわけですが、当時はみんな、「利き腕で重い物を持っちゃいけない」という誤解から、筋力トレーニングはタブーであるという固定観念に縛られていたんですよ。余計な固定観念は人生をも左右する。私の場合はキャッチャー復帰につながったように、柔軟性を持って生きたほうがどんな可能性を秘めているかわからないということですよね。

明日の第十一回の質問は、「Q11.レギュラーを目指す中、バッティングにはどのように取り組んだんですか?」です。

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野村 克也

のむら かつや

1935年、京都府生まれ。1954年にテスト生として南海ホークスに入団。1980年に45歳で現役を引退、解説者となる。1990年には、ヤクルトスワローズの監督に就任し、4度のリーグ優勝、3度の日本一に導く。1999年から3年間、阪神タイガースの監督、2002年から社会人野球のシダックス監督、2006年から東北楽天ゴールデンイーグルスの監督を歴任。2010年に再び解説者となり、現在、多方面で活躍中。


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