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マニュアルなき『オンライン授業』導入は教員現場を混乱させる

第25回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■インフラとマニュアルなき「オンライン授業」の行方

 地域によっては全校が休校状態を続けるしかないし、再開したところで分散登校しかできない。登校できない子どもたちがたくさんいる現状にもかかわらず、学びに遅れが生じてはならないし、地域格差も生まれてはならないというのだから、これはオオゴトである。

 学校と教員は、それこそ「あの手この手」を駆使しなければならない。そうしたなかで、「最高の手」として文科省やマスコミがもてはやしているのがオンライン授業なのだ。
学校に子どもたちが来れないのなら、オンラインで授業をやれば問題はない、という発想である。「実物の先生か、モニターに移る先生かの違いだけじゃないか」くらいの言い方をする人も少なくない。

 しかし、冒頭で中学校教員が嘆いていたように、今の日本にはオンライン授業が普通に行えるような環境はない。緊急事態宣言の延長を受けて、東京都の小池百合子知事は都としての対応策を発表したが、そこで小中学校でオンライン授業に使用するパソコンの貸し出しや通信費を支援すると述べた。つまり東京都でさえも、オンライン授業を行うに充分なインフラが整っていないということである。教育予算が豊かだといわれる東京都でさえこんな状況なのだから、環境が整っている地域はごく少数でしかないはずだ。

 そのことは、安倍首相も承知しているようだ。緊急事態宣言延長の記者会見で、1人1台端末を早期に整備するための予算措置を行ったと胸を張っている。ただし、「すぐに実現できるものではないが、そうとう頑張ってもらっている」とも述べている。
休校は現在進行形で続いており、学びに遅れが生じてはならないし、地域格差が生まれてもならない、と言明しているにも関わらず、1人1台端末は「すぐに実現できるものではない」というわけである。

 また、端末の問題がクリアできたたとしても、それで充分な指導ができるのだろうか。学校のICT化の現状を取材したとき、文科省の担当者は「これが日本の現状です」と不満げに言いながら示したのが、経済協力開発機構(OECD)加盟国・地域の子どもたちを対象に行われるPISA(学習到達度調査)の2018年実施の結果だった。

 これが日本で公表されたのは2019年12月3日。日本は読解力で前回(15年調査)の8位から15位へ後退したことが大きく報じられた。読解力が大幅に低下した、というわけだ。
しかし文科省の担当者は、「読解力も問題ですが、こっちのほうがもっと問題です…」と語った。「こっち」とは学校におけるICT活用の調査結果である。加盟国・地域の中で、日本は最下位だったのだ。教育現場で、ほとんどICTが活用されていない実態が明らかにされている。

 こんな状況であるにもかかわらず「オンライン授業の活用」が叫ばれているのだ。武器も手元にない、あったにしても使い方が分からないにもかかわらず、「戦え」というのである。
では、もしこの戦いに負けた場合、その責任はどうなるのだろうか。間違いなく、学校や教員の責任が問われることになるはずだ。この状況を乗り切るために教員の過重労働は避けられそうもないし、安倍首相の発言も、文科省の方針もそれを前提にしているとしか思えない。

 どうするのか。学校と教員の対応が試されている気がしてならない。

  

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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