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現役のうちから始めたい 隠居生活の準備

スローに暮らしてみる

引退後にいきなり山歩きや料理を始めようとしても無理がある、と書籍の『今から始まる隠居のレッスン――ローコストで楽しむ暮らしのレシピ――』で、奥田裕章氏は語る。
楽しい隠居暮らしには練習が必要だ。限られた年金の中で、いかに能動的に、創意工夫して生活そのものを楽しめるか。制約があるからこそ、隠居暮らしは楽しいゲームになる。

暮らしの要は食にあり

 美味しいものをお腹いっぱい食べ、暖かい温泉にゆったり浸かり、ふかふかの布団でぐっすり眠る。これこそが、満足感を味わうことのできる生活の基本形だ。旅館はこの要件を全て同時に満たしてくれるので、温泉旅行はこの上なく素晴らしい体験となる。よって、この基本形を普段の生活の中で実践していくことが、即ちローコストで楽しむ隠居暮らしの練習になる。

 

 先ずは、食から考えてみよう。美味しいものをお腹いっぱい食べれば、誰でも幸せな気分になれるので、これは基本中の基本だ。 

 スーパーに食材を買出しに出掛けると、高齢化社会の影響なのか、よく隠居らしき爺さんに出会う。ふとカゴに目をやると、カップ.やスナック菓子が満載になっている。毎日の食事がこれだと、確かにローコストには違いないが、余りにも侘しい。もちろん、健康にも良くない。もしかしたら、ワイフに先立たれ、独り身なのかも知れない。

 人口問題研究所が算出したところ、妻と死別した夫は五年、離婚された夫は十年も寿命が短くなるとのことだ。妻に先立たれた夫の平均余命は五年に満たない。自分で料理できなければ、毎日インスタント食品で済ますか外食するかしかなくなる。こんな食生活が続けば、遅かれ早かれ健康を損ない、生きる気力も失われていく。死別であろうが離別であろうが、もしワイフを失っても長生きしたければ、料理を覚えるか再婚するかのどちらかだ。結婚は縁のものだが、料理は自分次第だ。

 ご飯さえ炊ければ、後はどうにでもなる。極端な話、惣菜だけ買ってくれば、それで立派な定食が出来上がりだ。食品添加物の問題はあるが、それでも毎日カップ麺よりはマシだろう。自分で作った時ほどの達成感はないだろうが、ある程度の満足感は得られるはずだ。中食でも侘しく感じない様にするコツは、パックされた容器のまま食べないで、きちんと器に盛りつけてから食べることだ。こういうひと手間こそが、コストを掛けずに生活を豊かにする工夫というものだ。

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奥田 裕章

おくだ ひろあき

一九六〇年生まれ、大阪府出身。名古屋市立大学医学部卒、近畿大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士、作家。山岳愛好家、料理研究家として、趣味のトレッキングとクッキングに勤しむ。私生活では、ミニマリスト&ダウンシフターとして、シンプルでスローな暮らしをエンジョイしている。現在、兵庫県に在住。夫婦二人暮らし。


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