しなの鉄道の「ろくもん」がワイントレインに変身
人気レストラン列車のプレミアムプラン、4月のデビューに先がけて試乗レポート
レストラン列車として有名な「しなの鉄道ろくもん」。2017年4月から夕方に走る「ろくもん3号」がワイン・トレインとして新たな魅力をもって生まれ変わることになった。その名も「信州プレミアムワインプラン」。高級感あふれ大人の雰囲気の列車旅が楽しめそうだ。デビューに先立って試乗会に参加できたので、その様子をレポートしよう。
北陸新幹線軽井沢駅の隣にあるしなの鉄道の軽井沢駅。もとは信越本線の軽井沢駅だった、その一部を使用している。記念館となっている旧駅舎の背後にあるホームに「ろくもん」3両編成が入線してきた。ドアの前には赤じゅうたんが敷かれ、プレミアムな列車に乗るムードを高めている。
JR九州の各種観光列車をデザインした水戸岡鋭治氏が「ろくもん」の制作にもかかわっているので、内装には共通の部分が多々ある。私が乗車したのは、長野方面へ向かう時に先頭となる3号車。車内に入るとソファーが目に留まるのは、水戸岡デザイン車の定番だが、この車両は通路の両側にふすま張りの個室がずらりと並ぶのが個性的だ。ふすま風のドアを左右にずらせて中に入ると、テーブルをはさんでゆったりとした椅子席が相対している。すでにテーブル上にはグラス、ナイフやフォークなどがセットされていた。
軽井沢駅発は17時14分。出発するかしないうちに、女性アテンダントさんが最初のワインをグラスに注ぎに来てくれた。「マリコ・ヴィンヤード・ロゼ2014」という銘柄で、マリコとは上田市内の丸子地区の古代名椀子(まりこ)に由来し、そこで収穫されたぶどうを使用したワインとのこと。そういえば、昔、上田丸子電鉄というローカル私鉄があり(今は上田電鉄となり別所線だけが残っている)丸子という地名には聞き覚えがあったので、マリコ=マルコといわれてピンときた。甘口ではないし、ワインは強くないので、少しだけにして、すぐに運ばれてきた白い長方形の器に入った前菜に手を付けた。信州サーモン、信州中野産キノコなど長野県産の食材を中心に盛り付けられている。間髪をいれずにワイン2品目が登場。2つのうち1つを選べと言われても分からないので、飲みやすいとおススメの「カンティーヌブラン2015」を二つ目のグラスに注いでもらった。
その間に列車は、林の中を走り、信濃追分駅に停車。発車すると右側に雄大な浅間山の雄姿が見えるとのことで徐行運転をしてくれたのだが、あいにくの曇り空で浅間山は全く見えなかった。
ワイン3品目のシャルドネ樽熟成。何とも重厚な味わいだ。すぐに出てきたメインディッシュ第1弾の信州ハーブ鶏と信州牛ローストビーフにはよくマッチする気がする。
舌鼓を打ちつつ、手を休め、ふと車窓に目をやると小海線のディーゼルカーが停まっている。小諸駅に到着したようだ。ここで休憩するでもなく、アテンダントさんはメインディッシュ第2弾となる飯山名物のみゆきポークとワイン4品目となる「ヴィニュロンズリザーブ メルロー2014」を持ってきた。みゆきポークは、飯山線の「走る農家レストラン」でも食べたことがあるけれど、調理方法が全く異なり、味わいを比べてみるのも興味深かった。
小諸駅から10分程で田中駅に到着。ここで10分くらい停車するとのことなので、体をほぐすためにホームに降りてみた。すっかり暗くなり寒かったが、ホーム上にテーブルを置いて地元の人たちがホットワインでもてなしてくれた。記念写真を撮ったり、乗客同士で談笑しているうちに時間となり、車内に戻る。
この日の旅は上田駅までで残り時間は30分程。最後となるデザートとワイン5品目のシードルが届き、これで飲食は終了である。リンゴやイチゴにジャムやクリームが添えられ、夕食の締めにふさわしい。シードルも長野らしくリンゴたっぷりという感じで、ジュースに近い味わいであった。ひと息付こうと思ったら、窓外に手を振る人たちの姿が暗闇の中に浮かんで見える。上田駅すぐ手前のしなの鉄道本社前とのことで、列車は減速してホームに滑り込んでいった。1時間15分の旅は飲食のメニューが盛りだくさんだったので、実にあっけなかった。この日の終点だったので、名残惜しく下車。ホームでは関係者のインタビューなどが行われ、記念撮影の後、お開きとなった。
軽井沢で一日レジャーやショッピングを楽しんだ後に、このワイン・トレインで優雅なひとときを過ごし、上田駅から上田電鉄の電車で別所温泉に向かったり、4月からの列車の終点となる戸倉駅まで乗って、戸倉上山田温泉でくつろぐ。そんな旅のコースが定番となりそうで、しなの鉄道沿線を巡る旅は大いに楽しめそうである。
野田隆『大人の「こだわり」乗り鉄の旅』