教育オンライン化はコロナ危機以前からの既定路線「大学編」
オンラインで卒業可能大学はアメリカに400以上だが日本は2大学だけ
コロナ自粛が緩和されつつある。一方、教育界はオンライン授業のスタートで現場は当初混乱を来しているといわれたが、いまはオンライン化にスムーズに移行しつつあるようにも見える。今後、日本の教育は完全オンライン化を実現するのだろうか? また教育のオンライン化は私たちに何をもたらすのか? 今回は特に大学講義のオンライン化について、著書『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』で世渡りの真実を説いたの著述家・藤森かよこ氏(福山市立大学名誉教授)が「日本の教育界【大学編】の未来」を語る。
◼️教育はEdTechへ
緊急事態宣言により一斉休校になり、世界中の「学校」は小学校から大学までオンライン化を急に迫られたように見えるが、事実は違う。
2017年1月26日に放送されたNHK「クローズアップ現代 ハーバードはもう古い?“エドテック”教育革命最前線」で扱われたように、教育のオンライン化は以前から注目されてきた。
EdTech エドテック とは、教育(Education)と科学技術(Technology)を組み合わせた造語だ。IT技術を教育分野に生かす取り組みのことだ。
EdTechについては、山田浩司の『EDTECH エドテック—テクノロジーで教育が変わり、人類は「進化」する』(幻冬舎、2019)に詳しい。山田は、エドテック関連の特許を多数保有し、インターネットを活用した難関資格受験予備校フォーサイトを運営している。
教育産業では自宅オンライン学習は、小学校段階から大学入試に至るまで、すでにいろいろ展開されている。東進ハイスクール東進衛星予備校は代表例だ。教育産業が開発した学習アプリは、有料無料問わずいろいろあり利用されている。しかし、日本では正規の教育機関のオンライン化は非常に遅れてきた。
■アメリカには完全オンラインで学位取得できる大学は400以上
アメリカには、完全にオンラインで学士号を習得できるプログラムを持つ大学が400以上ある。そのランキングも発表されている。
https://www.usnews.com/education/online-education/bachelors
ランキング第1位は州立オハイオ大学である。2008年度から健康科学(Health science)と看護科学(Science in Nursing)と歯科衛生学(Dental Hygiene)の学士号がオンラインで取得できる。
第2位は、エンブリーリドル航空大学ワールドワイド(Embry-Riddle Aeronautical University, Worldwide)である。航空学や航空宇宙学や航空経営学や工学や国土安全保障学など16の理学士号が取得できる。
イスラエル人実業家のシャイ・レシェフ(Shai Resehef)によって2009年に創立された「授業料無料」の完全オンライン大学(University of the People〈UoPeople〉)もある。この大学は高校卒業資格があれば誰でも入学できる。日本人も在籍している。
レシェフは、貧困層にインターネットを通じて高等教育を提供する目的でオンライン大学UoPeopleを設立した。その趣旨を彼が語った2014年3月のTED講演はよく知られている。
https://digitalcast.jp/v/20966/
UoPeopleでは、経営学(Business Administration)の準学士号(短期大学卒資格)と学士号と修士号が取得できる。コンピューター科学(Computer Science)と健康科学の準学士号と学士号と教育学(Education)の修士号が取得できる。授業料無料といっても、入学手数料60ドルに試験科目1科目ごとに100ドルから200ドルは必要だが。
2012年に設立され2014年に開学したミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)も、ほぼオンライン大学だ。サンフランシスコに本部はあるが特定のキャンパスがない。全講義はオンラインで配信される。
ミネルバ大学が独特なのは、学生は4年間で世界7都市に移住し寮生活を送るということだ。7都市とはサンフランシスコ、ソウル、ハイデラバード(インド)、ベルリン、ブエノスアイレス、ロンドン、台北である。社会科学、芸術・人文科学、自然科学、計算科学(Computational Sciences)、ビジネスの学士号と、意思決定分析科学(Science in Decision Analysis)で修士号を取得できる。世界中から2万人以上が出願するが、合格率は1.2%である。2019年度には日本人合格者が4名いた。
■日本の完全オンライン大学は2020年現在2大学のみ
日本では、完全にオンラインで学位取得できるのは2大学のみである。
日本初の完全オンライン大学はサイバー大学(Cyber University)である。ソフトバンク・グループによって2007年に設立された。高度IT人材の育成のために一度も通学しなくても最短2年間で大卒資格を得ることができる。4年間で卒業する場合の学費総額は入学検定料と入学金含めて293万8000円である。
大前研一が学長のビジネス・ブレイクスルー大学(BBT)は、日本初の遠隔教育による経営大学院(MBA)を持つ大学院大学として2005年に設立されたが、2010年から学部も開設した。グローバル経営学科とITソリューション学科で成る経営学部を持つオンライン大学になった。初年度納入学費は入学金を入れて117万円である。
現在は文部科学省の認可申請中であるが、もうひとつオンライン大学が2021年度から日本に誕生する予定だ。managara(新潟産業大学経済学部経営学科通信教育課程)である。4年間の学費(入学検定料、入学金、授業料)は計126万円である。
2018年度に開学した東京通信大学(Tokyo Online University)は、ほぼオンライン大学と言える。スクーリングやインターンシップや実習などがあるので、全く通学なしとはいえない。キャンパスも東京と大阪と名古屋にある。「情報マネージメント」と、「人間福祉」で学士号を取得できる。4年間の授業料が入学金を入れて62万円である。
オンライン大学の強みのひとつは、伝統的な通学型オフライン大学に比較すると授業料が安いことだ。教員の人件費と教室などの施設費が節約できる。
文部科学省の2019年度学生納付金調査によると、私立大学の初年度納付金平均額は入学金を入れて133万6033円である。4年間での学費総額は460万円近い。私立文系授業料より私立大学理系授業料のほうが高額であることを考えれば、オンライン大学の学費は安い。
■オンライン大学講座は日本でも盛んである
世界の有名大学や企業が提供する無料オンライン大学講座を集めたサイトもある。2012年にアメリカで始まったMOOC(Massive Open Online Courses大規模公開オンライン講座)である。このMOOCには代表的なプラットフォームとしてCourseraやedX(Free Online Courses by Harvard, MIT,& more)がある。
京都大学は、日本の大学として初めてMOOCに参加し、edXに入会し講義配信をしてきた。今では、東京大学や慶応大学や大阪大学などが参加している。
世界中の高校生がMOOCで大学の講義を調べて志望先を決めることができる時代である。社会人の再教育としての機能もある。学位は取得できないが修了証は出る。
2013年に設立されたJMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)は、その日本版だ。国公立私立問わず、多くの日本の大学が参加している。
そのほか、東京大学は正規講義のうち1400を超える講義の資料や映像を無償で公開している。京都大学の「オープンコースウエア」では、約800の講義、公開講義、国際会議、最終講義を動画配信している。
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