【白熱取調室】唖然ボー然大爆笑!「拳銃」めぐり恫喝•手打ち•ダマし合い! 元ヤクザvsデカ、真剣!司法取引
【塀の中はワンダーランドVol.8】それは何の真似だ。チョキか?
◼️「取引はしない!」係長の厳然たる態度に呆然
「係長……今、何て言った?」
「オレの言ったことがわからなかったのか? だったらその耳、よーくかっぽじいて、よーく聞いておけよ」
ボクは係長の目を凝視したまま、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「お前の持っている拳銃は、お前のション便と一緒に出してもらう。お前が手こずらせた分だ。わかったか。だから取引はしない!」
この厳然たる拒絶に、今度は間違いなく完璧に獄の塀の中に落ちていた。係長の言葉にすっかり毒気を抜かれてしまったボクは、呆然としていた。
今までのデカ連中は皆拳銃を欲しがっていたのに、この係長は違っていたのだ。
その後、係長はバカの一つ覚えのように「拳銃出せ。拳銃出せ」とボクに言い、「サカハラ、お前がそんな危険な物を持っていたら、何をやり出すかわからんから、大人しく拳銃とション便を出せ」と、呪文のように、何回も同じフレーズを繰り返した。
ボクはこの阿呆な係長とこれ以上付き合っていても仕方ないと思い、とうとう観念して尿を出す決心をした。
強制採尿の令状を執行されてからでは検事の印象も悪く、否認ということで、接見(警察の留置所や拘置所での面会)禁止をつけられてしまい、そのあとの公判廷においても、心情面で裁判官の印象がすこぶる悪くなってしまう。それに、量刑的にも「任意」と「強制」とでは大きく違ってくるのだ。ボクはそれを避けることから、これ以上突っ張っても仕方がないと判断した。
「係長、わかったから、令状だけは止めてくれよ」
「おっ、やっと出す気になったか。ずいぶん手こずらせやがったな」係長の顔に安堵の色が浮いた。
ボクの件が一段落しないと帰れないマル暴のデカ連中が待つ捜査の部屋へ、係長が取調室からデカい顔を出すと、「おい、誰かポリ容器持ってきてくれ」と言った。
すると、イガグリ頭のデカが半透明のポリ容器を片手に、機嫌よく、グットタイミングで現れ、「サカハラ、やっと出す気になってくれたのか。ありがとう」さも嬉しそうな顔をして見せた。やっと帰れる目途がついたから、ボクにありがとうと言ったのだろう。
ボクのいる取調室の入口に居残っていた他のデカ連中も集まってきた。その顔には皆、やれやれという安堵の色が浮かんでいる。
「サカハラはサムライだな」
イガグリ頭はそう持ち上げてから、「それじゃ、気が変わらないうちに、ション便、採っちゃおうか」と続けた。
サムライだとおだてておきながら、すぐ、「気が変わらないうちに採ちゃおうか」では、まるっきり人を小馬鹿にしているではないか。ボクをサムライと言うんなら、どうして「武士の一言は金鉄のごとし」という言葉を思い出さなかったのか。ボクは、ヤクザに憧れているイガグリ頭に呆れてしまった。
両手錠をかけられ、腰に青紐をくくられて、取調室からトイレへと引っ立てられてゆく。トイレの中でデカ連中に囲まれたボクは、言われるままに、ポリ容器の中を水道水で洗浄し、その容器を逆さにかざしてポーズを取らされた。
これは、捜査員が被疑者を陥れようとしてシャブを混入して偽装したり、また被疑者が捜査員たちに偽装されたと言い出して、あとで問題を起こさせたりしないための儀式である。要するに、容器の中には一切の不純物は入っていませ〜んということを証明するためのポーズなのだ。
「はい、そのまま動かないで……」
ポラロイドカメラを構えた捜査員が言い、カシャッというシャッター音とともにストロボが閃光した。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
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新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
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「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。