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学校再開によって増加する教員の負担と感染リスク

第27回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■動き始めた「再開前提」の学校生活

 文科省は22日、感染リスクを3段階にレベル分けした対応策を示す「学校再開に向けた衛生管理マニュアル」を明らかにした。感染リスクの低い「レベル1」は、教室の換気などを適切に行えば40人がひとつの教室で授業をできるとしている。一方、感染リスクの高い「レベル3」でも距離の確保や分散登校など感染症対策を徹底することで、授業の再開は可能としている。

 これはつまり、「再開ありき」のマニュアルと言える。

 そこで気になるキーワードが、「分散登校」だ。

 1クラス40人なら20人ずつ登校する時間を分けることで「3密(密閉、密集、密接)」の回避につながる。これを続ければ、新型コロナウイルス対策としては有効かもしれない。しかし、継続することは難しい。ある公立中学校の校長に訊いてみると、「やれと言われればやるしかないが…正直、やりたくない」との返事が戻ってきた。

 理由はシンプルだ。「教員の手が足りない」からである。

 1クラスを2つに分けて登校させて授業をするとなると、同じ授業を2回やらなければならないことになる。教育課程を変えずに1人の教員でこなそうとすれば、通常の倍となる授業をすることになり、明らかに過重労働になってしまう。
校長の立場として、それを無理強いすれば問題になることは明らかだ。ゆえに「やりたくない」のである。教員にしても、過重労働になることが確実な働き方など選びたくはないはずだ。

 誰もがやりたくないものを続けるのは難しい。それに、場所も足りない。40人のクラスを2つに分けるとなると、単純に2倍の教室が必要になる。それを確保することも困難だろう。統廃合を進めることで、いまの学校は、それこそ3密の状態になりつつある。倍の教室を確保するなど無理な状態なのだ。

  

■「分散登校」ははじまる前から形骸化している

 ただし、40人クラスを20人クラスにすることは、制度的には難しくはない。たとえば小学校の場合、「小学校設置基準(文部科学省令)」の第4条には「1学級の児童数は、法令に特別の定めがある場合を除き、40人以下とする。ただし、特別の事情があり、かつ、教育上支障がない場合は、この限りでない」とされている。「40人以下」だから、1クラス20人でもいいはずである。

 しかし、40人クラスが金科玉条のように守られているのは、それ以下のクラス編成にすると教員を増やし、教室を増やさなければならないからである。そんなカネのかかることには財務省がクビを縦に振らないし、それを説得できる力が文科省には無いのが、残念ながら現状である。

 だからこそ、40人クラスを2つにしての分散登校を続けることは、簡単ではない。学年ごとの登校日を変える分散登校も同じことである。

 そこは、自治体も理解しているようだ。

 5月21日に政府は【京都、大阪、兵庫】の緊急事態宣言を解除した。これを受けて兵庫県姫路市も市立の小中学校の再開を決めているが、分散登校からスタートする。それも最初の平日10日間だけで、11日目以降は学校給食も実施するし部活動も認めて、「平常化」となる。大阪市も6月1日から市立の小中学校を再開すると発表しているが、分散登校は14日までとしている。そして、15日からは全面的に再開する方針だ。

 3密を回避するための分散登校は、ほんの初期だけで、すぐに全面的に再開して、コロナ禍以前に近い学校に戻すのが自治体の方針らしい。多くの自治体で、そういう動きが始まっている。

  

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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