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“エディー改革”で強さを取り戻したイングランド。オールブラックスを王座から引きずり下ろす時

テストマッチ18連勝。ラグビーの母国のプライドを取り戻した。そこにあったエディー・ジョーンズの流儀

 2015年のワールドカップで日本代表を史上初の3勝に導いた名将エディー・ジョーンズ。南アを撃破した「ブライトンの奇跡」は記憶に新しい。その後イングランドを率い、ここでも目を見張る快進撃を続けている。昨年は無敗で駆け抜け、今年もシックス・ネーションズ(6ヵ国対抗)最終戦でアイルランドに土をつけられるまで負け無しの18連勝を達成。誇りを失いかけていたラグビーの母国を見事に立て直した。エディーが見据える先は2019、そして永くラグビー界の頂点に君臨し続けるニュージーランド・オールブラックスを王座から引きずり下ろすこと――。そのためにエディーはイングランドをどう変えたのか。

「暴れん坊」ハートリーをキャプテンに

エディーからの信頼が厚いディラン・ハートリー(写真中央)

 就任後まず着手したのがキャプテンの選任だった。ワールドカップでキャプテンを務めていたFLクリス・ロブショウから、ワールドカップには出場できなかったHOディラン・ハートリーに交替させたことは、イングランド国内でも驚きの声が上がった。

 ハートリーは選手としての資質以上にピッチ上での問題行動が多く、何度も出場停止になっている。そんな選手が果たしてリーダーとしてふさわしいのかという疑問の声ももちろんあったが、エディーは「間違いは誰にでもある。改めればいい」と意に介さず、キャプテンに任命した。この驚きのキャプテン人選の意図はいくつか推測できる。 

 まず、ワールドカップ史上最低の成績(予選プール敗退)を自国開催で残してしまったイングランドには、“荒療治”が求められていた。ハートリーは誰にでも臆することなく接することができる選手であり、チームの空気を入れ替えるには適任だったと言えよう。

 さらに、オーストラリア出身であるエディー自身と同じく、ハートリーもニュージーランド出身と、「外国」出身。コミュニケーションのとりやすさも理由の一つだったかもしれない。

3人の実力者を副キャプテンに配置

 そして前HCランカスターが発掘してきた、才能あふれる選手たちはそのまま残し、新たなリーダーグループを形成することでチームの再建を図った。 

 ハートリーに加え、エディーはNo8ビリー・ヴニポラ、CTBオーウェン・ファレル、FBマイク・ブラウンの3人を副キャプテンに指名した。この3人もランカスター前HCが見出した選手たち。キャプテンのハートリーはHOというポジション柄、戦術的交代や負傷や退場などでピッチから離れる場面も多い。その時に代わりを務められる選手という位置づけだ。また責任あるポジションを24歳のヴニポラ、25歳のファレルという若い選手たちに与えることで、さらなる成長を促す狙いがあった。

 ファレルは昨年からフィジー戦を除いて代表の全試合にフル出場した。昨年500得点を記録し、今年のイタリア戦で50キャップに到達した。イングランドの得点記録を持つジョニー・ウィルキンソンに自ら「彼は当然僕の記録を抜く」と言わしめ、次期代表主将の呼び声も高い。また、パワフルな突進でゲインを重ねるヴニポラは11月のアルゼンチン戦で負傷するまで全試合にフル出場し、世界屈指のNo8に成長した。

適性を見極めたポジションチェンジ、若手の発掘

 エディーが行ったもう一つの改革としては、二つの大きなポジションチェンジだ。FLロブショウをオープンサイドからブラインドサイドにスイッチした。そして、今までライバルだったジョージ・フォードとファレルという二人のSOを共存させた。幼なじみの二人を同じポジションで競わせるのではなく、ファレルを12番のセンターの位置に置いて一緒にプレーさせたのだ。二人の関係をよく理解しているエディーならではの選択だろう。

 そして、エディーはさらに若いタレントを積極的に代表スコッドに呼んだ。その顕著な成功例がやはりLOマロ・イトジェだ。弱冠21歳のイトジェは昨年のシックス・ネーションズでデビューした後、瞬く間にイングランド代表不動の正LOとして、昨秋に負傷するまでまさに「フルタイム」で活躍し、代表復帰となる今年のシックス・ネーションズもFLとしてフル出場した。

ナイジェリアの血を引く、マロ・イトジェ。圧倒的な身体能力を誇る

 イトジェ以外にもプレミアシップで目をつけた20歳前後の選手をトレーニングスコッドに呼んでいるのは、やはり2019年を見据えてのことである。 

 こうして、エディーは才能ある選手たちのモチベーションを上手くコントロールした。まずは昨年のシックス・ネーションズでのグランドスラムを達成し、失われた「母国」のプライドを取り戻した。さらに、昨春はオーストラリア代表にアウェイで3連勝、さらに昨秋は10年間勝てていなかった南アフリカに勝利するなど、2016年は一つも黒星をつけることなく終えることに成功した。

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斉藤 健仁

さいとう けんじ

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365 」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。


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