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岩田健太郎医師「感染爆発を押さえた西浦博先生の『本当の貢献』とは」【緊急連載①】

藤井聡氏公開質問状への見解(第1回)

◼️「正しい予測」ではなく「正しい判断」を

 さらに言えば、普通は未来の予測をする場合は、最悪のシナリオを想定して、「そうならないようにしましょう」と警告を立てるのが定石です。だから「いいほうの数字で計算すればもっといい話になっていたはずだ」みたいなのはまったく間違った考え方で、プロっていうのは普通は、「悪いほうのシナリオ」で想定を立てて対策を打ち、「そうならなくてよかったね」という状況に持っていくわけです。

 例えば「胸が痛い」と言って病院に来た患者さんに対して、医者はまず「心筋梗塞はないか」と考えて、例えば患者さんを入院させて一晩様子をみて、その間に血液検査で酵素の数値を確認して、「心筋梗塞でした」「そうじゃありませんでした」と判断します。つまり、実際に心筋梗塞だった時に、「心筋梗塞の患者さんを家に帰して、そのまま家で亡くなってしまう」という最悪の結果を避けるための判断をしているわけです。

 ですから検査の結果、あとから「やっぱり心筋梗塞じゃありませんでした」となったときに、「じゃあなんで入院させたんだ!」って怒り出すのは間違った考え方ですよね。

 医療従事者にとって大事なことは「正しい予測をする」ことではなくて、拙著『新型コロナウイルスの真実』(KKベストセラーズ、2020)の中でも強調したように、「正しい判断をする」ことなんです。

 「正しい判断」とは、必ずしも「未来を正しく予測する」ことではなく、いくつかの未来予測のシナリオがあった時に、どのシナリオが来た時でも破局的な結果にならない、最悪のシナリオを免れるために手を打つことです。

 我々は魔法使いではないので、未来を正確に予測することなんてできっこない。当然、西浦先生にだってできっこないですよ。それができると思っているほうがおかしい。

 ただし、正しい判断をすることはできる。最悪なシナリオを想定して、それを回避しようとすることです。

 ですので、最悪のシナリオを想定して、その回避にかかった西浦先生の判断そのものはまったく正しかったわけで、その最悪のシナリオがやってこなかったらから怒るというのは話が違う。心筋梗塞のシナリオでいうと、「なんで、この患者さんは心筋梗塞じゃなかったのに、家に帰さなかったんだ」と後付けで文句を言ってるのと同じなんです。

 第2回では「感染爆発を押さえられた要因について」語ります(本文構成:甲斐荘秀生)

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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