岩田健太郎医師「日本で感染爆発が押さえられた要因とはなんだったのか」【緊急連載②】
藤井聡氏公開質問状への見解(第2回)
◼️「実効再生産数」はそもそも静的ではない
実効再生産数について、藤井聡先生は以下のように仰っています。
(以下、藤井先生の記事より引用)
なぜなら、感染症の数理分析には、「一人の感染者が平均で何人に移すのか?」という再生産数という概念があるのですが、この値は状況変化が無ければ基本的に一定値を取り、かつ、それが1を下回っていれば、感染者数がゼロに収束していくことは数理的に自明だからです。つまり、この西浦氏作成データは、日本の(実効)再生産数が3月下旬以降「1を下回る」状況になっており、したがって3月下旬以降は、特に何の取り組みをしなくても、必然的にゼロに収束する状況になっていた事を意味しているのです。
(引用終わり)
この議論は間違いです。
先ほど説明した「基本再生産数」R0の場合はその議論も成り立ちます。古典的な議論では「R0が1以下であればどんどん感染者は減り、ついには感染者がゼロになる」と言うことができます。
ところが「実効再生産数」Rtというのは、刹那刹那で変わる「その日の時点での再生産数」を言っているわけで、次の日には違う再生産数になってしまいます。定義からして動的な数値ですから、なにもしなくても毎日同じRtがでてくるわけではありません。
しかもこの新型コロナウイルスでいうと、前回も説明した通りうつりやすさが一定ではありません。ひとりの方が5人にも6人にも感染させる事例があったり、だれにも感染させない事例があったりと、バラバラです。日本中でそういうデコボコした感染が起きているのを平たく直した結果、みなさんがご覧になっているグラフのカーブになっているわけです。
ひとりから多くの方に感染させるような事例を「スーパースプレッダー(Super Spreader)」と呼びますが、そのような事例が多発し、ある日ある時ぎゅっと感染者が増える、ということが当然起こり得るわけです。
それが起きないようにすることが大事ですから、そのためにはこの実効再生産数Rtを1以下に「押さえ続けること」が重要になってくるわけです。油断してRtが戻ってしまっては元の木阿弥です。