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岩田健太郎医師「感染対策も分析も西浦先生だけに『依存』してはいけない」【緊急連載③】

藤井聡氏公開質問状への見解(第3回)

◼️新型コロナはなぜ医療崩壊を引き起こすのか

 今回の流行で大変だったもののひとつは、医療現場の状態です。実際、医療現場は非常に大変な状態にありました。重症患者が増えて、地域によっては医療崩壊寸前だったんです。

 データだけを見る人がよく「病床数は結構余ってるじゃないか」って言うんですけど、病床数が余るようになったのは緊急事態宣言が出てから数週間経った、流行の後のほうになってからで、それ以前の本当にヤバい時は、バケツがひっくり返る瀬戸際みたいな状況にあったんです。

 そんな状況になってしまった理由のひとつに、今回の新型コロナウイルス感染の「長引く」特徴にあります。

 軽症でも重症でも、長引くんです。軽症だったらPCRが2回陰性になったら退院になりますが、なかなか2回陰性にならないから、何週間もずっと入院することになる。

 重症患者は呼吸不全が起きて挿管されるわけですが、お亡くなりになる方でも、回復される方でも、ものすごく時間がかかる。だから集中治療室のベッドがすぐに埋まってしまうんです。

 よくある勘違いとして、例えば東京都のデータを見て「新規の重症患者がだんだん減り続けているじゃないか」とかいう意見がありました。しかしこの「減り続けている」というのは、あくまで「発見される人」が減っているだけで、実際にはなかなか退院できないから、入院している患者さんの数は累積してだんだん増えていたんです。

 緊急事態宣言が出てしばらく経ってから、兵庫県などいくつかの自治体では、ホテルなどを活用して軽症患者さんを退院させるスキームができました。しかし流行の当初にはその仕組みがなかったので、入院する患者さんの数がどんどん増え続けました。

 そうなると本当に医療崩壊寸前になって、医療スタッフはものすごく疲弊します。ただでさえものすごく重苦しいPPE(個人防護具)を着て、自分が感染するかもしれないストレスの中でケアをやらないといけない。そして実際に、東京都を含めていろいろなところで院内感染が起きてしまっています。

 院内感染が起こると当然、感染した医療スタッフが患者に転じて、患者数がドンと増えます。

 それから感染した本人はもちろん、一緒に働いていた同僚なんかもみんな濃厚接触者になり、14日間程度の健康監視をしないといけない。その間は、当然職場に戻れない。ということは、医療のキャパシティがガクンと落ちる。

 そうするとその病院は大きくキャパシティを失ってしまいます。よって、外来を閉じたり、病棟を閉鎖したり、手術をやめたりするわけです。

 当然、手術が必要な患者さんが消えてなくなるわけじゃないですから、周りの病院が手術を肩代わりしたり、入院患者や外来患者を肩代わりしたりするわけです。そうすると周辺の、コロナを診ていない病院も患者さんで溢れかえることになる。

 そうすると今度は診てもらえない患者さんが増えてきて、病院の外の地域コミュニティにも影響が出てきます。「医療崩壊というのは医療セクターだけの問題で、他の人たちが知ったことか」というのは大きな間違いで、医療が崩壊すれば当然一般市民も困るわけです。

 この影響は、ドミノ倒しのようにじわじわ出てくるのであって、これは長期に渡るケアが必要な新型コロナの特徴がもたらす、累積的に出てくる影響なんです。
これには「軽症患者をできるだけ早く退院させるスキームが遅れた」などの政策的な問題の影響もありますから、全部が全部、感染の増加によるものではありません。

 だからといって「新規で見つかる感染者が減ってるから全然問題ないんだ」というのは大間違いです。

 新たな患者さんが発生し続けている限りは、医療機関は逼迫する。少なくとも、緊急事態宣言が出てからしばらく経った時に、そういった大変な状況にあったことは間違いありません。

 そして、こういった医療機関の困窮は、西浦先生のグラフには全然出てきません。

 それは西浦先生が悪いわけでもなんでもない。西浦先生のモデルやグラフだけで全部説明しようとするのが、そもそもの間違いなんです。

 藤井先生や米山先生の議論が間違っているのはそこで、「西浦先生は間違っている」と主張している割には西浦先生に依存しているのは大きな矛盾でしょう。

 同じことは厚労省にも言えて、本来だったら西浦先生のグラフだけではなく、もっといろんなところを見るべきだったんです。ぼくは2月くらいからずっと、「とにかくPCR2回で退院させるスキームをやめて、どんどん患者さんを病院から家に帰れる、あるいはホテルに宿泊できるようにしないと大変なことになる」と警告していたのに、4月になるまで動きませんでした。そういう人災的なところもあって、医療機関はずっとしんどかった部分があるわけです。

 このように感染症の対策には、単純な感染者数に表れないいろんな要素が絡んでいます。ですから「西浦先生のグラフが正しい、間違っている」という以前に、そもそも西浦先生のグラフだけで感染症のすべてを説明しよう、あるいは対策を決めようとすることが土台無理なんだということを、ぜひ理解してください。

 次回、最終回は「真実を見つけていく態度こそ進歩の条件」を語ります。(本文構成:甲斐荘秀生)

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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