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岩田健太郎医師「科学は検証を経て、真実に少しずつ近づいていく」【緊急連載④最終回】

藤井聡氏公開質問状への見解(第4回:最終回)

◼️対応を検証し、第二波に備える

緊急連載取材での岩田健太郎医師。5月24日ZOOMにて取材

 藤井先生の議論の中でぼくが「正しいな」と思ったのは、今回の対応についてこのままスルーしてはいけない、検証しないといけないということです。

 「〇〇さんの大罪だ」みたいな言い方をするのはよくないと思うんですけど、かといって「これは終わったことだから、もういいじゃないか」っていうのも、やっぱり間違いです。第一波を乗り越えたこの一連の流れは、「志村けんさんがお亡くなりになった」などの偶然の要素も大きい可能性もあるわけです。それは、換言するならば一種の「まぐれ」の可能性です。全面的に「まぐれ」ではないにしても、そういう「要素」があった可能性は十分にあります。

 緊急事態宣言そのものは罰則規定もなにもないスローガンみたいなもので、効果はみなさんの気持ちに依存していました。だからどうなるかは蓋を開けてみるまで誰にもわからなかった。幸か不幸か日本の場合は、だんだんみんなが自粛モードになって、ある意味「過剰な自粛」もしたので「案外」うまくいったところがあります。

 ぼくの実家の島根県なんかではほとんど感染者がでてないのに、軒並みお店が閉じて、公園も閉じて、誰も外に出なくなった地域もあったそうです。「そこまで過剰にやる必要はなかった」と言われれば、なかったとも思うんですけど、日本の場合は同調圧力が非常に強いので、それが多分感染症のコントロールという観点からは「いい方向」に作用した。

 それが経済的に有害だったかというと、もちろん有害だったに決まっています。ぼく自身4月に入ってから「少なくとも東京ではロックダウンすべきだ」と主張しましたが、もちろんロックダウンは経済へのダメージがすごく大きい。

 ぼくの意見では、感染がすごく激しい地域でもっと激しいロックダウンをして、ズバッと短期的に感染者を減らしてパッと解除するほうが望ましかったと思っています。これは今後いろんなシミュレーションをして、いろいろなパターンのロックダウンのもたらす感染予防効果や経済への影響を比較すれば、解析・検証できることでしょう。

 同じように、藤井先生のご指摘の通り、GW明けにさらに延期する意味があったかについても検証の余地があると思います。

 どの辺が狙った通りで、どの辺が計算違いだったのか。経済活動の抑制はどの辺がやらなすぎで、どの辺がやりすぎだったのか。47都道府県みんな一律に扱うやり方が本当に適切だったのか、違うシナリオのほうがベターだったのか。きちんと検証して、第二波の可能性に備えるべきでしょう。

 この連載の第3回で「報告の遅れ」の問題を紹介しました。報告の遅れが生じなければ、もっとリアルタイムに「いまなにが起きているか」が理解できたはずですが、それをもたらしたのは現場の非効率です。

 つまり、保健所が使い叩かれた。「保健所を介さないと何も起きない」という非常に非効率なスキームのために、東京では情報が麻痺して混乱が起きたのは間違いないですから、第二波が来るまでにこの問題は絶対に解決すべきです。

 保健所の職員だってあれだけ多忙を極めれば、病気にもなるし、倒れたりもします。「同じやり方でもう一度やってくれ」と言われたら、多分ほとんどの職員の方は「勘弁してくれ」と音をあげるでしょう。

 「感染者数をFAXで報告する」という伝統的な文化もそうですし、いちいち電話で連絡するのもそうです。保健所ではお互いに電話がつながらない状況が延々と続き、時間的に大変な非効率を生んでいました。例えばLINEでグループつくって送ってしまえば、手間をかけずに複数の関係各位に同時に情報が伝達できたはずなのに、「電話とFAX」というとんでもなく古典的なやり方に依存してしまった。

 あるいは、これは後で改善されましたけれど、保健所を介さないとPCRができないなど、いろいろな問題がありましたね。PCR検査をできなかった人が大勢いたことをはじめとして、西浦先生のグラフに出ていない感染者がデータの背後にたくさんいたことは、まず間違いないでしょう。

 そういうものを全部含めてこの第一波をどう議論し、総括し、反省し、改善できるか。できることはたくさんあると思います。

 日本の感染症対策は、伝統的に「結果的にうまくいったからよかったんだ」という話でこういったことをスルーしがちなので、それは絶対やめたほうがいい。

 医療現場では局面局面で「もうだめだ」と思うところが多々あり、本当に際どいところでした。例えば「ホテルへの患者移動があと数日遅れていたらもうだめだったかもしれない」と思っている医療従事者は大勢いるはずです。

 そういう綱渡りだったところを忘れて、「イタリアやアメリカをみろ!日本はすごくよくやったじゃないか」みたいな、変な「物語」に落とし込まれないようにしてほしいと思っています。

次のページいろんな知恵によって前進していく

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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