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【元芸人・作家の松野大介】テレビのインチキ報道で起こったコロナ人災を忘れるな(後編)

「コロナ回想録」(後編)


 コロナ禍でテレビは視聴率稼ぎにインチキ報道をしていたのをあなたはご存知だろうか? じつにしれっと謝罪をし、いまや無かったことにしているが、そこにテレビ製作の無責任体質がある。一方、日本人は先進国のなかでもテレビ報道を信じる国民として有名だ。国民が見たいものをテレビは見せる。共犯関係でもある前回に続きテレビ製作の舞台裏をよく知る、元芸人にして作家の松野大介氏がコロナ報道でテレビはどんな煽り報道をして、どんな立ち回り方をしていたのか、を鋭く観察し分析した。いま松野氏は、都会を離れ、沖縄に移住し、日本で起こっている出来事を静かに観察している……


◼️ はじめに

 前編で私が伝えたったことは、テレビ(主にワイドショーや夕方のニュース報道)がコロナを視聴率のとれるコンテンツとして自粛中の人々を恐がらせられる映像の作りやコメントを多用し、安心させるデータは消極的に披露した報道姿勢について。

 保健所や病院がパニックになったのは煽り報道も要因の1つだと考える。 

 3~4月を時系列でわかりやすく記した続きです(ぜび前編をお読みください)。

80年代、テレビで活躍したお笑いコンビ元「ABブラザーズ」の松野大介氏。芸能界から文芸の世界へ転身。95年、『ジェラシー』にて『文学界』新人賞最終候補作となる。現在沖縄在住

◼️自粛警察を生み、裁く「自作自演」テレビのトリック【5月】

2020年5月28日。緊急事態宣言が解除された東京(写真:AFP/アフロ)

 上旬に、千葉市が報道の在り方について言及したことを抜粋して記します。

 《この緊急時に「罰則を!」「自粛要請ではなく禁止にしてしまえばいい!」など、強権発動を期待する声が高まっています》(略)

《こうした不満の背景は報道機関が多くの国民が自粛を守っている国民性を報じず、一部の守らない人を一生懸命報道する姿勢も影響しています。成人式の報道に似ていますね。成人式は多くの新成人は問題ない行動をしていますが、マスコミが荒れている若者を探し出し、ネタとして消費します。そして世の大人たちがそうした若者の振る舞いを見て、「若い連中はしようがねえなあ」と批判し、優越感に浸るという毎年の風物詩です。
 自粛を守っていない報道も同じです。 世の多くの人が自粛を守っているのに、 自粛を守っていない人たちに対して、罪悪感を感じず、遠慮なく叩き、優越感に浸り、人々が共感を感じることができる、その真相心理をメディアは利用し、 視聴率を稼ぐことのできるコンテンツとして利用しているのです》

 ワイドショーやタ方のニュース報道は感染者探しから、パチンコ店や飲食店の開業探しに移行した。隠し撮りが横行している番組も多く、犯人探しのように、「開けてる店を発見!」「三密状態です!」などと報道で扱い始めた。政府が「三密を避けて」と言っているから、観る側はそれを煽りと感じない。「みんなが我慢しているのに(店を)開けているなんて!」とテレビの思惑通りの感情を抱く人もいる。

 その報じ方が自粛警察を生んだと私は考える。

 その後、ワイドショーが自粛警察を調査し始めた。看板に貼られた「ヤメロ」の貼り紙を衝撃的に映し、「誰が? なぜこんなことを!」と責める。自らの煽り報道で生んだ事象をネタとして再利用する。 

 ここでキーとなるのは「三密」も、不正映像が発覚した人混み映像の「気の緩み」(前編の冒頭参照) にしても、小池百合子都知事西村康稔コロナ担当相が発した言葉を引用することで、テレビは「正義の側」に立つということ。だから観る側は 「自粛しない店の人」から「店の人を取り締まる自粛警察」へと怒りの対象を移行するだけで、それらを操って映像を作る側にテレビを観ている人々が疑問を抱く意識は生まれにくい。

 ネットで見つけた国立感染症研究所のデータによれば、インフルエンザ・肺炎の死亡者が今冬も毎週400人超え、それが10週以上は続き、春になり下降している。そのグラフを見ると、トータルで5000人以上は死んでいるのではないか。原稿執筆の5月25日時点で新型コロナ死亡者数(と報じる番組もあるが、関連死も含む)は800人台。

 「コロナ回想録」前編で述べた通り、テレビはインフルとの数の比較を極力避けたい様子。映像の不正が発覚したテレビ朝日『モーニングショー』(前編参照)は5月上旬、専門家が「コロナの流行で今年はインフルが少なく済んでいます」とインフルの数に触れたが、具体的な数字は言わず、司会も突っ込まなかった。確かに関連死を含め1万人死んだ昨シーズンより少ないが、コロナの比ではないだろう。

 テレビに釘付けで「コロナ恐いよ~」と怯えている人に、私が「インフルは毎年数千人死ぬし、今年の冬も毎週400人死んでいたよ」と教えると、「ええ?」と驚く。そういう人はテレビが触れない限り知らないままだ。(もちろん私はコロナにワクチンがなく、さらに指定感染症のため医療機関が逼迫する可能性があることもわかって書いている)

 5月9日〝宮城感染者1人死亡 東北では初〟
 そのニュースを知った時、いくら東北に感染者が少ないとは言え、コロナの感染が始まってから2カ月を過ぎたこの時期でひとり目だということに驚いた。え? 今まで東北地方では誰も死んでいなかったの? と意外だったのだ。死亡は80代の男性だった。

 5月13日〝28歳の力士が死亡 20代以下で初めて〟
これまで自分なりに調べてきた私も、29歳以下での死亡者では初めてだと知り、またも驚いた。テレビが感染者の総数と死亡者数を都道府県別で連日報じるわりに、死亡者の年代別の統計はあまり出さないので、高齢で、特に疾患のある人の死亡が多いと知っていても、「この時期に29歳以下でひとり目?」と、 意外だったのだ。「インフルって毎年、子供も死ぬよね」と率直に思った。その力士は糖尿病を患っていた。

 もちろん、欧米の感染拡大国のようになる可能性を考慮して危険を訴えてきた番組もあるが、報道の大騒ぎと、この2つの〝ひとり目〟のギャップは大きい。

 

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松野 大介

まつの だいすけ

1964年神奈川県出身。85年に『ライオンのいただきます』でタレントデビュー。その後『夕やけニャンニャン』『ABブラザーズのオールナイトニッポン』等出演多数。95年に文學界新人賞候補になり、同年小説デビュー。著書に『芸人失格』(幻冬舎)『バスルーム』(KKベストセラーズ)『三谷幸喜 創作を語る』(共著/講談社)等多数。沖縄在住。作家、ラジオパーソナリティー、文章講座講師を務める。

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