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医師にとって、働きたい地域と働きたくない地域

第4回 最強の地域医療

医師は「大事にしてもらえる地域」で働く

 こんな経験があったため、北海道夕張市の住民の方の意識の高さには、大変驚きました。2006年、夕張市の財政破綻に伴い、2007年から夕張市立総合病院に代わって、村上智彦医師が「夕張希望の杜」を立ち上げました。私は「夕張希望の杜」3年目から夕張を手伝うようになります。

 夕張の住民の方は、救急車は緊急時以外に利用しない、夜ではなく昼間に受診するべき、生活習慣改善のためになるべく歩くなど、村上医師を始め、スタッフの皆さんの啓蒙活動の結果、すばらしい意識を持つようになりました。

 確かに、救急ではないのに救急車を利用したり、数日前の症状なのに夜中になって心配だからと受診したりする患者さんはいましたが、年々減っていきました。

 それだけではありません。「こんな時間に申し訳ございません」「ありがとうございます」「遠い所から助けにきてくれて、有り難い」など、患者から感謝の言葉が増えていきました。地域住民でもある病院スタッフも、なるべく医師に負担がかからないように、夜間や休日の緊急性のない訴えの場合は、日中に受診する様に促すなど頑張ってくれていました。

 私は夕張を手伝いながらも、東京の病院で当直をしていましたが、そこには“いつもの光景”がありました。

「早く診ろ! 原因を直ぐに突き止めろ!」「原因が分からないだと? それでも医者か?」と言う患者やその家族に一人で対峙しながら、夕張の意識の高さと、夕張での働きやすさをあらためて感じていたのです。

 医師にとって働きたい地域と働きたくない地域の違いは、大げさかもしれませんが、「大事にしてもらえていること」を実感できることだと思います。

 医療は人と人との間で行われることなので、「ありがとう」や「すみません」などの言葉が潤滑油になりますし、不思議なことにそれだけで疲れも気にならなくなります。いつでも、どこでも、誰でも簡単に病院に行くことができて、診察してもらえる、日本ほど素晴らしい医療システムを持った国は他にはありません。

 医師も含め、このシステムを維持するために最も重要なのは、システムを大事に使う“人(住民)”なのではないでしょうか。

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橋本 弘史

大阪府堺市出身。2014年からNPO法人「ささえる医療研究所」勤務。「ささえるクリニック」副院長。


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