医療の場にこそ「働き方改革」を――。夕張を変えた医師が提言。
第6回 最強の地域医療
これからの日本では、ブラック企業のような人資源乱獲モデルはもう通用しない。雇用をまちづくりと考えなければ、地方はこれから維持していくことができない――。北海道で地域医療の最前線に携わりつづけてきた村上智彦医師が考える、雇用のあり方とは? 村上医師の著書『最強の地域医療』(ベスト新書)から、自身が運営する「ささえるクリニック」の働き方を特別公開。
年功序列も終身雇用もいらない
「ささえるクリニック」の給与体系はシンプルです。年齢、性別、学歴で差別せずに、基本給16万(短大卒の平均給与)がスタートで、これに能力給と資格給と若干の組織貢献給が上乗せされます。
元々、今の時代には終身雇用とセットになっている年功序列制度は時代遅れだなと感じていましたし、若いからという、年齢で差別されているとも感じていました。
評価される基準が年齢であり、年齢が給与という報酬になるのです。でもそれは、おかしくないですか? 本当は中年の人の評価も若い人の評価も能力給にすればいいのです。
破綻した夕張市立総合病院では、50代のヒラの准看護師が年収800万も貰っていたという話を聞いて、私の感覚は間違っていなかったと確信しました。破綻した病院は人件費率が100%をはるかに超えており、年間の赤字が3億以上で、累計40億の赤字で破綻しました。
まさに、年功序列制度、終身雇用が組織をつぶしたのです。夕張市も同じです。夕張はもともと10万人以上の町でした。その公共サービスを維持するための公務員を抱えていたので、すでに1万人近くまで減った人口でも、同規模の3倍の公務員を抱えていました。
つまり、年功序列制度と終身雇用、労働組合が夕張を破綻させたのです。
「ささえる」のシステムでは、能力や努力によって早いペースで昇給していきます。優秀な事務は高校新卒でも、1年で16万から20万以上に、優秀なスタッフはすぐに給与が2倍になります。若い人ほど早く昇給して、45歳くらいで昇給は終わるので、それまでに将来の方向性を決めて独立するように考えるのを基本にしています(つまり雇用するだけではなく、育てて地域力を上げると考えています)。
もちろん、一生働いてもらうこともできます。従業員は50歳から給与が下がっていき、その代わり定年がないといった仕組みにしてきました。その時は、事務長などの役職を若い人に譲ってもらう、それでも基本給の16万は保証するという仕組みです。
そもそも高齢になれば実質的な稼ぎが増えるわけではないので、一番働く人たちに手厚くするほうが平等です。
現在「ささえる」では、常勤医師が4名いますが、はっきり言って他より給与が高いわけではありません。その分仕事が他の職種にシェアされており、医師がカルテ等の書類を書くことはほとんどありません。
そもそも人件費の高い人は資格がなければできない仕事に集中すべきで、それ以外の仕事を他の人にシェアして給与がいくようにすれば、不公平感がなくなり、やり甲斐にもつながります。
例えば現在、事務局長の山田奈緒美は最初は無資格の50代の地元の女性でした。これまでは年齢のために色んなところの面接に落ちていました。でもうちは何歳だろうと16万スタートなので、うちに合っていそうだと判断して採用。彼女は優秀だったので、1年で10万以上の能力給がつき、結果としては同世代の年功序列制度がある会社にいる人よりもいい給与になりました。
今ではヘルパーや手話、マッサージの資格を持ち、会社の経営業務を会計士さんや社労士さんから学び、学会でまちづくりを語り、電子書籍を発行するまでになりました。
医療事務の博田彩奈は事務局長の娘さんで、25歳まで正社員になったことがなかったのですが、ヘルパーの資格を取って今では診療所の運営を切り盛りしながら、医薬品や備品の整理や、カルテの入力、訪問診療の同行等も行っていて、看取りも経験しています。最近家を購入して子育てをしながら働いています。
診療所の最終的な目的は、それぞれの職員がやがて自立して地元で起業することにあります。
そのために資格を取ったり、経験を積むのが今の職場で、その後は自分たちも地元の若い人たちを雇用するというのが理想です。