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韓国人シンガーKが日本の伝統を旅する
「ろうそくは『立ち止まって考える時間』を与えてくれるもの」

第12回 和ろうそく 大與(だいよ)4代目大西巧さん

日本人が火の中に感じる「兄弟」

K ろうそくというのは、それこそ人間の生活に欠かせない道具ですよね。日常的に使うもの。僕が子どものころも、今に比べるとまだまだ停電も多くて、そうすると、僕がろうそくに火をつける役目だったので、馴染があるんです。今でも、家でろうそくを使うこともあります。

 ただ、全体的に見れば、電気が主流になり、安全性の問題もあるのかもしれませんが、だんだんろうそくを使う機会が減っていますよね。仏前や神前では使う機会はありますが。もともと仏前にろうそくを灯す理由ってどういうことだったんでしょうか?

大西 仏さんの前で火をつけるというのは、いろいろ意味があるんですけど、そのひとつには、ろうそくには仏の知恵とか目という意味があるみたいですね。亡くなられた方が仏のお導きによって、彼岸へ向かう道しるべのような意味がろうそくには含まれているようですね。

 ところで、仏前や神前においても、危ないという理由で火が使われなくなっていると思うんですけど、電池式のフェイクろうそくとか、生活の中ではもっと顕著ですよね。でも、もともと、日本人、東洋人というのは火をふたつの意味に分けていたというのはご存知ですか?火の兄と火の弟というふたつです。丙(ひのえ)と丁(ひのと)の語源です。丙(火の兄、ひのえ)、お兄さんのほうは太陽だったり、燃え盛る炎を表していて、丁(火の弟、ひのと)弟のほうは、ろうそくの小さい灯火を表しています。だからろうそくの「あかり」という漢字は、小さい火なので火へんに丁と書くでしょう。とにかく、そうして本当に危ない「火」と、安全な「火」に分けていたんです。そうやって分けていたものがいつからか、“ファイアー”という言葉で安易に簡素・簡略化してしまった。全部ひっくるめて、「危ない」そして、「使わない」というところへ繋がってしまっているのではないかなと考えています。
 ろうそくというのは、もともとは「火」という自然のものをどう活用すれば人間の生活の中へ入れることができるかというところから、生まれたんだと思うんです。つまり、丙を丁に変換して、家の中へ入れることに成功したのがろうそくというわけです。だけど、やはり「丁」だって、自然ですからろうそくを使うとき大事なのは、ろうそくから目は離さないということです。子育てみたいなもので、きちんと火を見守ることなんですよね。そこをしっかりすれば、これほど、火と共存していることを感じられる道具はないわけです。おろそかにさえしなければ、安全なものなんですよ。
 安全なだけでなく、ろうそくの灯りは「照らす」という役目の他に、眺めていると、なぜかリラックスしたり、そんな恩恵もありますよね。僕らはこのろうそくの灯というのを自然のリズムというふうに呼んだりします。このゆらぎというのは、そもそも人間の意志によって生まれているわけではないじゃないですか? ろうそくを灯すことで、心が落ち着くというのは、「ゆらぎ」が生み出す自然のリズムに体が合わさっていくからだと思いますね。

 実は和ろうそくは、火を灯したあと、しばらく経つと芯がのびきて少し暗くなるんです。でもこののびた部分の芯を摘みとってあげると、また明るくなるんです。こういう作法は、キャンプでたき火をしたときに、火の番をするのと同じ感覚ですね。見守りながら手を入れていく、火と人が共存していることをこういうことからも感じられます。
K そういう作業は、洋ろうそくの場合は必要ないですよね。そのひと手間かける感じは面白いですね。それに和ろうそくは香りもいいですね。

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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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