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「左翼と呼ばれることを嫌がるリベラル」は無知である。

日本人にリベラリズムは必要ない①

ナショナリズムの勝利というべきアメリカのトランプ現象、そこには「リベラリズム」の後退があった。新刊『日本人にリベラリズムは必要ない。』を上梓した、田中英道氏が昨今の世界情勢を読み解くキーワード「リベラル」を、その語義から解きほぐす。

Ⅰ 「リベラルとは何か」―、まず用語を整理する

 基本的に「リベラル」という言葉は「自由(自由人)」を意味していて、たいへん良い意味のように聞こえます。しかし、リベラルの由来をたどっていくと、かなり古くて長い思想の歴史があり、後に詳しく触れますが、時代によってその中身の変遷があるのです。

 今のリベラルは、物事を常に(、、)批判的(、、、)()見る(、、)ところに大きな特徴があります。現在自分が所属している組織や共同体は批判されて当然だと考え、そこからの自由を目指す人々のことをリベラルと呼んで間違いないでしょう。

 

 リベラルにはかつて、「左翼リベラル」と呼ばれていた時代があります。左翼リベラルという呼び名はきわめて適確でした。19世紀の思想家カール・マルクスが打ち立てた革命思想にもとづいて、プロレタリアート(労働者階級)蜂起による共産主義革命を目指す政治運動と密接に結びついていたからです。

 ところが、1991年12月、マルクス・レーニン主義を掲げて1922年に建国されたソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が崩壊します。プロレタリアート蜂起による共産主義革命国家の存続は不可能であるということが、具体的に証明された瞬間でした。

 左翼リベラルの「左翼」の部分が根拠を失い、解体したのです。今もあいかわらずプロレタリアート革命にこだわる団体、メディアは存在してはいますが、左翼は当然この失敗を認識していて、旧来の革命思想に自信を失っています。自分たちが左翼と呼ばれることを今のリベラルが嫌がる理由のひとつです。

 左翼と呼ばれることをリベラルは嫌がりますが、ここには大きな欺瞞があります。なぜなら、リベラルのグランド・セオリー(すべての領域に適用される考え方・理論)は、あいかわらずマルクス主義思想だからです。

 資本主義が成熟すると必ず矛盾が生まれ、社会主義を経て共産主義の理想に至るという考え方は何も変わっておらず、そこに至るための方法はやはり“革命”です。リベラルにとっては、革命の中の、プロレタリアート革命というひとつの方法が不可能となっただけの話です。革命とは、既存の体制、社会を破壊することを言います。

 一方で、自分はマルクス主義者ではないと思っているために左翼と呼ばれることを嫌がるリベラルも存在します。しかしそれは、勉強不足などいろいろな理由から「自分自身が気づいていない」というだけのことに過ぎません。端的に言えば、無知な人たちです。

(『日本人にリベラリズムは必要ない。』より構成)

 

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田中 英道

たなか ひでみち








昭和17年(1942)東京生まれ。文学博士。東北大学名誉教授。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める。著書に、『日本美術全史』『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(共に講談社)、『新しい日本の歴史』(育鵬社)他多数。


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