【府中から帯広刑務所へ】移送先は「さ、む、い、と、こ」《懲役合計21年2カ月!! 生き直し人生録》
「ヤクザとキリスト」凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.3
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。
実刑2年2カ月! 府中刑務所に入った著者のじんさんは、いよいよ懲役の移送先が決まる。夏の盛りに決まったのは北海道の帯広刑務所。なぜ寒い「塀の中」なのに受刑者たちは「北」に行きたがるのか・・・。
■移送先は「さ、む、い、と、こ」
夏のくそ暑い太陽がギラギラと容赦なく照りつける府中刑務所の独居房で、ボクは壁に寄りかかって、忙しなく鳴き立てる蝉たちの声を聞いていた。噴き出す汗が幾筋ものラインを描いて滝のように身体を伝い、ぼろ布と化した穴だらけのランニングシャツに容赦なく染み込んでいく。そんな光景を、ボクは悶々として見つめていた。
八王子拘置所から移送されて2カ月が経過していた。
「新聞です」
独居房の扉の下側につくられた食器口から、いつもの経理夫の見慣れた顔が現れた。そしてボクの顔を見るとニッコリ微笑んで、声を潜めるようにして言った。
「サカハラさん、3日後、やっと移送になりますよ。場所は帯広刑務所です。帯広は行状は楽だし、エサ(食事)も最高ですよ。頑張ってください」
この経理夫は普段から何くれとなくボクに気を遣ってくれていた。そのお陰で、回覧の新聞なども、他の者たちよりも余計に長く見ることができた。
経理夫は受刑者たちの仕事上の管理や身の回りのこまごまとしたことを、担当の片腕となって行っていることから、移送関係の情報もすぐに入ってくる。だから事前に知ることができるのだ。
ボクは2カ月間ものモノトーンな生活がやっと報われると思い、欣喜した。
太陽が西へ大きく傾いて夕焼け空をつくり出す頃、「材料出しー!」の声が独居房の廊下に響き渡る。この「材料出し」というのは、一日の仕事が終わるに当たって、各房に入れている材料を段ボールの箱の中に入れて房前の廊下に運び出すことをいい、同時に房内の清掃の合図にもなっている。
この合図からしばらくすると、担当がガチャガチャと金属音を立てて鍵を差し込む音、ガラガラと房扉を開ける音が一定のリズムを伴って廊下に響き渡る。
担当がボクの部屋の前に来て、鍵穴に鍵を差し込み、扉を開いた。そして担当の「ご苦労さん」という声とともに、段ボールの箱が廊下に運び出された。
いつもならそのまま行ってしまう担当が、部屋の中を覗き込むと「サカハラ、明後日移送になるから、明日は領置調べだ。ご苦労さん」と言って、扉に何かをペタンと貼りつけた。移送が確定した者には「移送予定」と書かれた磁石のついたプレートが貼りつけられるのだ。そして移送までに、入所のときに自分の私物を記録した刑務所側の帳簿と照らし合わせ、何一つ忘れ物のないように確認をとって、移送の準備をするのだ。
材料出しが終わった担当が、手に持った鍵の束をジャラジャラと音を立てて回しながら、ボクの部屋の前を通った。
「担当さん、自分の移送先はどこですか?」
ボクは担当を呼び止めて訊いてみた。すでに経理夫から聞いて移送先を知っていたのだが、わざと知らないふりをして訊いてみたのだ。すると担当はニッと笑うと、「さ、む、い、と、こ」とだけ言った。
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。