WBC選手選考「メジャー選手の気持ちは理解できた」仁志敏久氏が感じた難しさ
WBCで勝ちぬくために必要なこととは。
独自の世界観を持って理想を学び、考える人へ聞く1週間集中インタビュー企画。仁志敏久さんに聞く、世界と将来を見据えた野球界。
<WBCは、準決勝敗退。課題がある一方で戦前の評価を覆したとも言える。肌で感じたこととはどんなものだったのか(全二回後編)>
Q2.WBCの経験から改善すべき点はどこにあるでしょうか。
【前編はこちら】
――勝敗を分けたところはどこになるでしょう。
仁志 これという答えを出すことはできませんが、ひとつ難しさを感じたのは(準決勝以降)アメリカでやらなければいけなかったことです。時差や移動による疲労の問題は想像より大きかったですし、限られた人数でオープン戦をこなすことはとても苦労しました。
――準決勝前に組まれたシカゴ・カブスとロサンゼルス・ドジャースとの試合でしょうか。
仁志 はい。主催者側からすれば試合勘などを考慮して組んでくれたものだったと思うんですが、限られた人数しかいない中でのやりくりにはだいぶ苦労しました。選手たちは、ただでさえ東京ラウンドで懸命に戦って疲れている中で移動や時差にも対応しなければいけない。本番に向けて出せない選手も出てきますし、そうすると練習試合に2試合とも出てもらわないといけない選手がいたりと……。
――キャッチャーである炭谷選手をファーストで起用するシーンもありました。
仁志 そうですね。今後、対応策を考える必要はあると思いますね。
――一方で長い時間をかけて作ったチームということで監督やスタッフ、選手たちにも強い思いがあったのではないでしょうか。
仁志 最初にも少し触れましたけど、やっぱり逆風がありましたからね。小久保監督の経験や、プレミア12の敗退などいろいろ言われました。それは僕らだけでなく選手も強く感じていたはずですで、その状況下で「勝たなければいけない」というプレッシャーは相当なものだったと思います。それこそ今回のWBCでは青木(宣親)選手以外のメジャー選手は出ることができず、かつてのイチロー選手のようなシンボル的な存在もいなかった。だからこそ、選手一人ひとりが自分でできる最大限のことをやろうとして、全員で協調しながら日々に向かっていく姿勢にはしびれましたね。
――存在が大きかった選手はいますか。
仁志 みんな頑張ってくれましたけど、青木選手の存在は大きかったですね。僕らでは感じ取れないことまで感じ取って、要所、要所で声を掛けてくれました。ありがたかったです。
――メジャーの選手に関しては、もっと出てほしかった、出るべきだったという意見もありました。
仁志 個人的には納得せざるを得ない、という気持ちです。代表候補になった投手はWBCを経験した人も多かったので調整の難しさは知っていたと思います。所属球団にとっても大事な選手に万が一があっては困る……と考えるのは理解できます。ただ、日本の球団にいて出られる状態にあった選手は出てほしかったなとは思いますけどね。それでも、出たいという気持ちがある選手を優先してきたわけで、それは結果的に良かったと思います。これはプロのレベルに限った話ではなく、野球をするうえで大事なことですよね。うまくても気持ちがない選手よりは、下手でも気持ちがある選手がいい。代表の場合はみんな高いレベルにあるわけで、だったら気持ちがある選手を選びたいと思いますから。
――選考自体はどういう形で行われたのでしょうか。
仁志 監督とコーチ陣でこういう選手がいいんじゃないか、という会議をしています。最終的には、小久保監督が決定するという形でした。
――実際、気持ちが入ったプレーも随所にみられました。驚きだったのは中田翔選手のスチールです。
仁志 僕はファーストコーチャーだったので、「このピッチャー全然、行けるから狙っておいて」と伝えると、すぐに中田選手が「じゃあ行ってもいいですか?」と。そういう気持ちは重要です。僕らとしては、選手が何をしようとも、たとえ選手の判断でやったことでも、僕らの判断である、というスタンスでいましたし、それが結果的に失敗になっても全部受け止めるつもりでいましたから、迷いはなかったです。野球ってプレーする姿がその人の気持ちをよく表す、伝わりやすいスポーツだと思うんですね。多くのスポーツと違って止まっているシーンがたくさんあって、表情やしぐさもしっかりと見られるから伝わるんです。今回のチームは、小久保監督のもと選手たちがやっている思いが伝わったからこそ、逆風を跳ね返すことができたと思いますね。