【帯広刑務所編】配役は印刷工場! ケンカ・非常ベル・警備隊員一番乗りはラーメン券⁉️《懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.7
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
帯広刑務所に入ったじんさんは、懲役での「豆の選別」を行った。弾かれる豆をじっと見ながら、世の中から弾かれる自分たちの姿を見た。
帯広刑務所でじんさんの配役は「印刷工場」。いわば、懲役のなかでは夏はクーラー、冬は暖房でじつは花形のお仕事です。どのようなお仕事ぶりなのかちょっと拝見しましょう。おっと、さっそくケンカでしょうか???
■弾かれ、捨てられてゆく豆のように
初めて塀の中へデビューを飾ったときから、ボクは印刷工場で就役してきた。そんなことから、今回も無事に、50名ほどの印刷工場への配役になった。
この配役も、工場に行くまではどの工場へ行くのかわからない。それはめくるまでわからないトランプのカードと同じである。各工場に配役になる人間は10名前後で、この配役のときも、各々両手に自分の荷物を持ち、担当に連れられて、まるで、カルガモ親子のお散歩のようにして、それぞれの工場へゾロゾロとついて行くのである。
服役中、同囚を殴り殺してしまった奴は、不良の多くいる金属工場へ配役になっていった。あとで流れてきた噂で知ったのだが、そいつは工場に入って行くなり、おっ、新入りが来たぞという感じで無遠慮にジロジロ見ている奴らに向かって、「おい、テメェら、ジロジロ見てんじゃねえぞ!」と噛みついたという。
注意に入った担当とも揉めたことで、そのまま取り調べとなってしまった。暗く陰気な顔に、見ているだけで凍りつきそうな鋭いカミソリの刃のような目つきで異彩を放っていたそいつには、新入訓練工場のときから誰も近寄らなかった。
刑務所では、印刷工場は一応、花形工場の一つとされている。
知的な仕事とまではいかないが、パソコンやコンピュータで制御する印刷機などがたくさんあることから、簡単な軽作業を行う通称モタ工場とは違った。印刷工場に配役されて来る受刑者の質は、同じ犯罪者ながらも良かったのだ。そこにはエアコンがあるから、夏は涼しく、冬は暖かかった。
工場内の中央の壁際には、1メートルほどの高さの、風呂屋の番台に似た担当台がある。この見晴らしのいい担当台の上で担当は事務を執りながら、常に受刑者たちが何か悪巧みをしていないか、工場の隅々まで、その動静をモニターしているのである。
ボクが荷物を抱えて入って行くと、工場中の受刑者が一斉にボクを見た。そんな遠慮容赦のない受刑者たちの好奇な視線のシャワーの中、随行してきた職員に担当台の前まで連れてこられると、「そっち側に立っていろ」と、頭の上から工場担当の声がしたので、担当台の真下に移り、荷物を足元に置いてその場に立つ。担当台に顔がつきそうな感じで立っているボクの目の前は、大きな壁となっていた。
ボクが以前務めていた府中刑務所の東部六工場、通称「オバケ工場」は玩具をつくる工場だったが、ここには片目、片腕、片足など、五体満足ではない約20名ほどの受刑者たちが、工場の片隅で就労していた。そのせいで、オバケ工場と呼ばれていたのだから、ひどい話である。
ここの担当台は2メートルはあろうかと思うほど異常に高かった。まるで要塞のようである。工場には150名ほどの懲役が就労していたので、毎日、工場のどこかしらで喧嘩騒ぎが起きる。そこで保安上からも、この高さが必要となる。担当自身が身の危険を感じたときに駆け上がって、その身の安全を確保する、重要な役割を果たすためにも必要な高さだからだ。
当時のオバケ工場のオヤジ(担当)は「鬼の古川」と呼ばれていて、懲役囚から恐れられていた怖い存在だった。そんな「鬼の古川」に日頃から虐められて不満を抱いている懲役は数多く(大体が現役の不良たちだったが……)、時折、そんな懲役たちが古川に向けて日頃の鬱憤を爆発させることがあった。
また、工場でいい顔の兄ィたちが、日頃手なづけている若い奴らに、「おい、お前ら、オヤジに飛んで(焼きを入れる。制裁をくわえる)、少し恥をかかせてやれ」などと、クンロク(因果を含める。脅す)を入れて、担当を襲わせるといった事件もたびたび起こっていた。
そんなときはいくら「鬼の古川」であっても、多勢に無勢では敵うはずもなく、その場から一目散に担当台に駆け上がって避難するのである。担当台は高く、階段を狭く、作ってあるから、追ってきた懲役囚が担当台の上に駆け上がろうとしても、なかなか登れない。それどころか逆に、担当が履いている編み上げブーツの硬い靴底で上から蹴り下げたりして、追いすがってきた暴漢たちへ反撃に出る。その間に、暴漢たちは非常ベルで駆けつけた警備隊によって取り押さえられ、鎮圧されてしまうのである。
ついでに記しておくと、この警備隊員たちは、どこの工場を巡回していようとも、非常ベルが鳴った工場を最優先する。そして我先にと息せき切ってすっ飛んでくるのだ。一番早く乗りつけて来た「一番乗り」の隊員は、あとでご褒美として保安課からラーメン券がもらえる仕組みになっていた。
あるとき、息せき切って一番乗りで駆けつけてきた警備隊員が勢いよくドアを開けると、ハァハァと息を切らしながら開口一番、たまたま入口近くにいたボクに「サカハラ、今日はオレが一番か?」と訊いたことがあった。
「一番ですよ、オヤジ!」
ボクが答えると、
「よっしゃ! ラーメン券もらったァ!」
ガッツポーズをし、歓喜の雄叫びを上げながら喧嘩の起きている場所へすっ飛んで行った。
このように、刑務所の担当台というのは、監視とともに、ときには避難場所の役目も果たすように高く作られているのだ。それにしても担当台が2メートルとは異常な高さである。その当時の東部6工場の治安の悪さ、無法破り的なありようがわかろうというものである。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
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新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。