【帯広刑務所編】チロリン村頂上決戦‼️ ヤクザ者は皆、負けず嫌いで意地っ張り「こんな野郎に負けるかァ!」《懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.9
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
帯広刑務所で印刷工場の配役となったじんさんは、通称「チロリン村」、電気ソケットを作る「モタ」と呼ばれる班でお仕事開始。負けず嫌いのヤクザ者、道産子兄ィとの仕事のスピード競争、ガチンコ登場決戦となりました。「こんな野郎に負けるかよ!」この気持ち、シャバでも塀の中でも大事です‼️
■道産子
ボクの隣で、札幌拘置所から移送になって来て4カ月になる木佐という、某組織のいい道産子兄ィが、チロリン村のモタで黙々と仕事をこなしていた。
簡単で単調な作業は飽きがくることから、誰もがのんびりと、一日をそつなく潰す感覚でやっていた。チロリン村に就いたボクは、そんな連中のことなどお構いなしで、最初からある程度のスピードで(電気)ソケットの組み立て作業を開始した。1カ月もすると、今までのんびりと仕事をしていたチロリン村は一変したのである。
ボクの異常なまでの仕事ぶりに触発された仲間たちが、今まで以上に生産を上げ始めたのだ。特にボクの隣の席で、「お日さん、西、西(一日が無事に終わればそれでいいという感覚で過ごす)」でやっていた道産子の兄ィがまず豹変した。闘争本能をむき出しにして、ボクと張り合うかのように、目の色を変えてやり始めたのだ。明らかにボクへの宣戦布告であり、ボクへの挑戦だった。
元来、ヤクザ者は皆、負けず嫌いで意地っ張りだ。そんなことから二人の間にはライバル意識が生まれ、朝の始業開始の「ヨーイドン!」から、まるで4分の1マイルを争うドラッグレースの改造車が、初めから勢いよくドーンと火を噴いて走るかのごとく、火花をバチバチ散らしながらデッドヒートを展開していた。
最初のうち、ボクはこの兄ィを問題にしなかった。しかし、だんだん相手の手が速くなってくると気になり始める。やがて、ボクの様子を盗み見るようにして追いついてきたときには、本気でムキになっていた。
ちくしょう、こんな野郎に負けるかァ!
敵愾心をムキ出しにして、相手の追随を許さなかった。何が何でも、ボクのプライドが相手との差を縮めさせなかったのだ。
そんなボクは、小憎たらしい兄ィに向かって、いつも勝ち誇ったような顔をして、「オレには勝てねえよぉ〜」と、内心嘲笑っていた。
そんな調子で、毎日、目の色を変えて日増しに速くなってくる相手を振り切ろうと必死になりながら、熾烈なバトルを繰り広げていた。だから、あまりにも仕事をやり過ぎて、ときどき材料が切れてしまうこともあった。
悲鳴を上げたのは、次の工程の連中だった。いい大人が目の色変えて気が狂ったようにやるものだから、追いつかないのである。だからでき上がった製品が後ろの席で山積みになっていた。そのせいで、
「ケツに火がついていま〜す。だから、ゆっくりお願いしま〜す」
「チャウチャウ」と仇名されていたそのポジションの責任者から泣きを入れられてしまった。仇名の由来はもちろん、彼の風貌がチャウチャウ犬に似ていたからである。
しかし、ボクと道産子の兄ィはそんなことはお構いなし。勝負のことしか頭になかった。材料が入ってくると、その材料の取り合いをしながら、また意地になってバトルを再開してしまうのだった。
道産子の兄ィは肝臓が悪く、五十路も下り坂だというのに、見かけによらず手が速く、まごまごしていると追い抜かれてしまうほどだった。
ときどき二人が同時に終わり、同時にスタートを切ることがあった。二人ともそれぞれのトレイの上に組み立てた製品を次々と並べていく。その鬼気迫るスピードに、ややもするとボクが負けることもあった。そんなときは、相手の勝ち誇った顔が憎たらしく、また、堪らなく悔しかった。その日の勝負に負けると、その夜は悔しくて眠れなかったほどである。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。